打算-53/貸し借り

秀一がチャイムを鳴らすと、中からこちらに走って来る僅かな足音が聞こえた
防音はもう一つだな、と秀一は思った

「あら、お帰りなさい・・・明日じゃ無かったの」
「ユェミーの顔を一日でも見ないと、寂しくなった」
「へー、嬉しいことを言ってくれるわね」
「ユェミーはどうだった？」
「寂しかった・・・・・今夜は２回分サービスしちゃおうかな」
「・・・それでいいよ」

「嘘・・・貴方は疲れているから、一回で我慢する」
「そんなに疲れてはいないさ」
「久し振りに奥様を可愛がってあげたのに？」
・・・・・ばれている

「いいの、わたしが一番なのが分かっているから」
「・・・・・ああ」
秀一にとってはその通りだった



フランクフルトから大野にレポートが届いたのは、その少し前だった
あの脅迫事件で、栄転させた小沢和真のレポート
とんとん拍子に出世し、今はフランクフルト支店次長で、ヨーロッパ支社のナンバー４
この４月から、ニューヨーク支社に栄転が決っている

上の息子の高校進学で、母子三人が一月に帰国していると書いてある
「小沢は今一人か・・・ニューヨークも単身で行くのだな」
何気なく呟いたその一言で、大野は考えを巡らせた


「まだ貸したままだった・・・・・借りれば貸すのがルール、さてどうする？」
「中田にさせるか？・・・それが筋だが」
一月のレポートで見落としていた？

一月の控えを、鍵の掛かったキャビネットから取り出した
確かに帰国したと書いてある
そして、またレポートを見た
「女房はドイツ語と英語に堪能、か」

電話を取ると大野は調査会社に架け、用件を伝えた
「いや、急いでいる。一週間後に届けてくれ」

そのファイルは極秘親展で、きっかり一週間後に届いた
出身地や学歴は元より、家族・親戚に趣味から身長と体重
スリーサイズに好みのブランド、過去の異性関係
現在の異性関係は調査続行中と書いてある
確かに、これは一週間では掴めない


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