打算-32／施し

「夕食はマレーの料理にしてくれる？」
「ここの食事は殆ど中華よ。だって人口の８０パーセントが中華系」
「そうだな」
「・・・・・だったらチーファンを作ってあげる」
「英語で何と言うの？」
「イングリッシュでは無く、シングリッシュでチキンライス」

インもシンも同じじゃないかと秀一は思った
ここシンガポールは、オーストラリアやニュ―ランド語より英語が聞き取り難い

仕事を終え、家に帰ってくると電気が点いていて、食事の支度が出来ている
こんな当たり前のことが、秀一は嬉しかった
然も毎日の料理が美味い
何時も散らかっていた部屋が綺麗に整理され、洗濯物は引き出しに畳まれ入っている
人間らしい住まいにやっとなった



ユェミーが来て丁度一週間目の夜遅くの事だった
自分部屋でパソコンを切り、寝ようとしていた時ドアをノックする音

「入っていいよ」
ドアを開け入って来たユェミーはバスタオル姿だった
「どうかした？」
そう聞いても秀一の目を見詰めるだけ


「１週間、毎日待っていました」
「何を？」
「貴方が来るのを」

参った、全く気がつかなかった
確かに最初の日はしてしまった

「立ってないでこっちに座りなさい」
「いいかい、私はユェミーをメイドで雇った」
「でも、４００ドル何て多過ぎる」
「そうかも知れない。しかし、外国人のメイドを雇えば税金だけで３００ドル払う」
「ここシンガポールでは、住み込みのメイドは夜のお世話もします」


それは聞いている
現に独身の部下全員が雇っていた
外国人のメイドを雇い、税金を払っても５・６００ドル
メイドの手取りは税金より低い

アメリカドルでは無く、レートが６５円のシンガポールドルだ
日本円なら一ヶ月４万円にもならない
然も、この手当てが全額会社から出ていた
これが世界に出向いている日本企業の現実
秀一はいろんな国に行くが、本当に日本は豊かだとつくづく思う


「私は人から施しは受けたくありません・・・・・特に貴方からは」
「好きでもない男に抱か・・・・・」
参った、優しくし過ぎたのか？


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