打算-22／大野の打算

この様な場合、普通の男なら逆に左遷にする

「いや、こう言う場合は引き上げる方がいいのさ」
・・・・・侮った奴ほど足を掬われる
「私の事、嫌いにならない？」
「よく考えてくれ。私の事を思って好きでもない男に身体まで与えてくれた」
「こんな有り難い事が有るか？・・・ますます奈々子に惚れた」

後は泣き声だけが部屋に響く
それもほんの僅かの時間だった
「ああー往く、いやー」


「貴方、一つ聞いていい？」
「何なりと」
「主人の破格の栄転は・・・・・私？」
「そうだよ」
簡単にそう大野に答えられ、奈々子はガックリとした表情になった

「やっぱり」
「今頃分かった？」
「４０過ぎの只のおばさんよ」
「他の男からはそうでも、私には絶対唯一の女なんだ」
「何処がいいの？」
「顔も身体も頭の良さも性格も、全て」
「へー、そう？」

「しかし、それだけではないんだ・・・・・あいつは仕事が出来る」
「ふーん。もう一つ聞いていい？」
「なに？」
「奥様とは？」
「月に一度は抱いている」
「ふーん、私は毎週なんだ」
「そう」

「私の方がいい？」
「当たり前じゃないか。女房は惚れて一緒になったのではないよ・・・会長の娘だからさ」
「へー、貴方でもそんな卑怯な事をするんだ」

「卑怯とはなんだ、卑怯とは。打算といって欲しいな・・・・・でも卑怯だな」
「そうでしょう？」
「認めるよ」

「私はまだ往ってないぞ。このまま話し続ける気か？」
「いいえ。どうぞ貴方の惚れた唯一の女の身体を存分に味わって」


「あっあぁー、また往かされるー、いいのーいぃー」
幾ら防音の壁とドアとは言え、女の声はかすかに廊下まで漏れていた


　　　　　　　　　　　　　　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第一部　　完


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