打算-8／私の打算

タクシーの中で運転手に見られながら、奈々子は頂上がもうすぐそこまで来ていた

「お願い出して、一緒に往って」彼が頷くと同時に私の中に迸らせてくれた
「あー出てる・・・往く、いぃあぁー」


「あぁー、どうしてこんなに感じるの」
羽毛の掛け布団はベッドの下に落ちていた
下に敷いたシーツが濡れ、大きな染みを作っている
何時の間にかパジャマは脱ぎ捨てられ、ショーツだけが左の足首に絡まっていた
「大野さん」・・・彼のが欲しい



翌朝二人の子供たちを送り出し、義母を夜までの区役所のサークルに連れて行ってあげる
家に戻り一人になると、また想ってしまう

私って露出癖があるの？
タクシーの中でもそう考えたっけ
私、どうしてしまった？
主人が遠くに居て会えないから？
そう言えばもう２ヶ月もされてなくて、こんな事は結婚以来初めて
だからだろうか？



彼に誘われたら、どうする？
「もうー、そんな事がある訳が無いじゃない・・・主人の上司よ」
いいえあの目、擦り付けていたあの行為
断わるに決まっている・・・・不倫なんて私には出来ない
本当にそう言い切れる？

会長の一人娘の婿よ・・・次の社長と主人から聞いている
彼に気に入られる事は・・・出世が出来る
私が断わったら？・・・何処か辺鄙な国に左遷させられる
絶対断われる？・・・役員の妻
友人の中に一人も居ないのよ
何て響きがいいの・・・・・上場会社の役員の妻


あー、急がないと遅れてしまう・・・・・
何を着て行けばいい？
この前の彼は、イタリア製の着易そうなスーツだった
何にしよう？

迷いに迷って、奈々子はサンローランのシックなグレーのドレスにした
ドレスさえ決まれば、靴も下着も決まる
下着は同じくグレーのセクシーなのにした
そして入念にシャワーを使い、ショーツとブラに隠れる所に滅多に使わない香水をほんの少し

どうしてこんな所に？
無意識にそこへ付けている自分が分からなかった
「ひょっとして、期待してる？」
「お昼なのに？」


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