シェアー1／自己嫌悪

咲希が大貴と出会ったのは、今から１１年前
何故か咲希は気になって仕方が無かった
その時、咲希は２７歳
結婚をしてもいい、と考えていた男が居た
しかし、結婚の話は一度もしていない
付き合い出して、一年が過ぎ様としていた時だった
大貴と出会ってしまった

取引先の営業課長で３２歳
何時も表情が変わらない
笑った事は一度も無い
感情が無い人間の様に見えた
そんな暗い人間なのに気になる
咲希に無表情で来訪の用件を言うだけ


咲希は素晴らしい体を持っている
胸は特に自信があった
どの男も例外なく胸を見る
顔より胸に視線を何時も感じていた
彼は全く胸を見ない
チラッとも見ない
そうよね、取引先の受付をジロジロ見る訳は無いわ
と考え様とした
でも、みんな見ている
チラチラ位は

もう一人の同僚も同じ意見、暗い人間だった
「彼、ゲイじゃない？」
と、同僚に言った
昔から大貴に会った女は、みんな同じ事を考える
それにしても暗い人
そう考えていた
初めて会って３ヵ月後に咲希は聞いてしまう


「彼の奥さん、小さな子供を残して、白血病で半年前に亡くなったんだって」

咲希はショックだった
何も知らずにゲイだと決め付けた自分
「ほら、またあのゲイさんが来てるわよ」
同僚と何回も笑い転げた自分に嫌気が差した
何て、酷い人間なんだろう
自己嫌悪
その言葉通りに陥った
何時もニコニコとして、明るかった咲希
顔から笑顔が消えた


会社に辞表を出した
明日で最後の日
彼が目を見詰めて、初めて声を掛けて来た
「明日でお止めになられるのですね？」
「はい」
「明日６時に駅前のドトールで待っています」

それだけを言いに来た？
会社に仕事で来たのではない？
玄関のドアを入り、それだけ言うと帰って行った


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