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しせん

2011年07月15日 13:07

もう一度確認しようとは思わなかった。
朝の陽射しの中で見てしまったら確実なこととなってしまう。
真理は夢であることを望んでいた。
(そうよ、夢に決まってる・・・)
昨夜の行為で汚れた身体を綺麗にしようとバスルームへ向かった。
両腕にはシーツとTシャツホットパンツ下着を抱えていた。
自動洗濯機に放り込むと、乱暴にスイッチを押す。
そしてバスルームに飛び込んだ。
今度は周囲を見ないようにして蛇口をひねった。
若干熱めに湯温を調整すると、頭をシャワーを浴びた。
(ふ~・・・)
熱めのお湯が身体と心の汚れを洗い流してくれるようで、真理はようやく落ち着くことができた。



髪を乾かすのが面倒だったが、出社しなければならない。
なんとなく気だるく休んでしまいたいと思いながら身支度を整えていく。
(明日は土曜日だから・・・)
自分を納得させるように急いで支度した。
朝食を摂る時間はなかった。
スカートを穿きながら冷蔵庫にあったゼリー状の栄養食品を口に運ぶ。
(いやだ、男の子みたい・・・)
テレビコマーシャルの1シーンが思い出された。


・・・


出社すると忙しさにまぎれて昨日のことを思い出すことはなかったし、変わったことも起こらなかった。
残業することを嫌い忙しく働いたが、結局定時には仕事を終えることができなかった。
職場には真理ひとりが残されてしまった。
同僚はみんな最近できたちょっとお洒落ショットバーに行ってしまった。
もちろん真理も誘われたが、明日休日出勤はしたくなかったので断った。
一つ年下の小林誠司が執拗に誘ってくれた。
嬉しくもあったが少しだけ迷惑に思う。
誠司は女の子の間では評判のイケメンだった。
仕事もできたし、明るくてみんなに好かれるタイプだった。
以前から真理に気があるという噂を聞いていた。
そしてひと月ほど前に交際を申し込まれた。


「時間ができたら来てくださいね・・・」


誠司の優しい言葉が背中に降りかかった。


「うん。ありがとう」


机に目を向けたまま真理は答えた。


・・・


広い職場省エネのため、机を照らす部分しか蛍光灯をつけていない。
もちろんすべてを見渡せないわけではなかったが、四隅の景色が曖昧になっている。
仕事に集中しようとするのだが、真理の意識は四散してしまう。
(やだ・・・終わらないじゃない)
一度深呼吸をしてパソコンキーボードに向かって行った。



「ふ~」


ようやく書類が片付き、腕時計を見ると秒針が止まっていた。
電池切れ・・・?)
仕方なく柱にかかる時計に目を向ける。
(9時か・・・)
3時間も超過勤務をしたことになる。
(もう終わってるだろうな・・・)
同僚に誘われたことを思った。
(だれか電話くれてもいいのに・・・)
誘われるのも面倒だったが、忘れられてしまうのも淋しかった。
だが真理はいつまでも思い悩む性格ではなかった。
デスクの上と身の回りを手早く片付けると、帰宅するために席を離れ扉へと向かった。
扉を開けていったん振り返って職場の様子を伺う。
窓が開いていないか、戸締りの確認だった。
大丈夫ね・・・)
続いて扉の横にあるエアコンの電源を落とす。
最後に照明のスイッチを切ろうとしたときだった。
真正面の柱にはシンプルな丸型の時計がかかっている。
問題はその上にあった。
それは、ちょうど時計と同じくらいの大きさをしていた。
形状も同じ。
ただ、その中心には黒くぽっかりと穴が空いていた。
(やだ・・・)
真っ先に頭に思い浮かんだのがその言葉だった。
恐怖と言うより嫌悪感に近い。
(いつから見てたの?)
真理のふたつの瞳は吸い寄せられるようにその物体を見つめていた。
そして、一歩足を近づけると、後ろ手にドアを閉めた。
入口の左手には応接用のソファーがある。
真理はそこへ腰を下ろす。
もちろん視線はその眼球に向けたままだ。
真理はゆっくりとブラウスの前をくつろげた。
ベージュ下着が露わになる。
パンプスを脱いだ両脚をテーブルの縁に乗せる。
タイトなミニスカートは腰まで持ち上がってしまう。
パンティーは赤だった。
そこには早くも小さな染みができていた。
上下お揃いの下着を着けたいのだが、白いブラウスに赤いブラは無理だ。
巨大な眼球を見つめているうちに真理の意識は希薄になり、同時に両手が下着の中へ忍びこんで行った。

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