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2011年07月27日 12:40

(あれ?)


下着を取りにクローゼットへと身体を反転させた優佳は、一瞬鏡に映ったヒップに目が止まった。


(傷かしら・・・?)


見慣れない傷のようなものが太腿との堺に見て取れる。
痛みや痒みはまったく感じられなかった。
優佳はそっと左手でそれを触ってみたが、指先にはなんの違和感も感じられなかった。


(傷じゃないみたい・・・)


小さな傷に見えるものは、注意してみなければ気づかない程度のものだった。


・・・


勤務を終えた優佳は、何処へ寄ることもなく真直ぐに自宅マンションに戻った。
日の暮れた街路を歩くとき、昨日見た夢を思い出してしまう。
あんなこと、あるはずはないと思いながらも背後が気になって仕方がない。
マンションに近づくと例の公園の脇に差し掛かった。
夢と同様大きな木が不気味な影を作っていた。
優佳が木の幹から目を離さずに急ぎ足で公園を通り過ぎようとすると、太い幹から何かが飛び出していた。


(・・・?)


暗くてよく見えないがむき出しの脚が木から生えているようにも見える。



毛深い男の脛のようにも見えた。


(行ってみようかしら・・・)


日の沈んだ公園に裸の男がいることは考えられない。
何か事件かもしれないと、優佳の職業意識が目覚めていた。
身体の向きを変えて、公園の敷地に足を踏み入れた。


「だめ、近づいてはだめ!」


何処かから優佳の行動を止めようとする声が聞こえる。


(だれ?)


優佳は立ち止まり周囲を見まわした。
だが人影は見えない。
気を取り直し、再度太い幹に目を凝らす。


(・・・ない?)


あの脚のようなものは、もう見えなくなっていた。
耳を澄ましても風にゆれる木の葉の音しか聞こえてこない。
見間違えたのかと思い、公園を後にしてマンションへ向かって歩き出した。


部屋に戻るとパンツスーツの上着を脱いでソファーの背もたれに放り投げた。
そして冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、そのまま口をつけて勢いよく喉に流し込んだ。


(あれ?これって昨日の夢と同じ・・・)


そう思った優佳はリビングのデスクに向かった。


(!)


デスクのパソコンを見たとき、一瞬心臓が止まってしまう。
夢の中で置いた缶ビールがそこにあった。


(夢・・・じゃなかったの?)


いや、そんなはずはない・・・
破られたはずのパンツスーツを今日着ている。


夢遊病かしら・・・)


それなら納得できる。
身体にできた傷もどこかにぶつけてしまったのだろう。
しかし、それなら病院に行かなければ。
優佳はデスクの前で考え込んでいた。



ドン!


突然大きな音がする。
優佳は音のした方向へ身体を反転させた。


(扉が開いていたのかしら・・・)


恐る恐る玄関に向かって歩き始めた。
リビングポーチを仕切る扉を僅かに開き、目だけで玄関ドアを見る。
二重ロックはしっかりと施錠され、チェーンロックもセットされていた。


(ふ~)


音を立てずに止めていた息を吐き出したとき、背後から抱きかかえられたのだ。


「っあ、うあああ~ い、いやあ~!」


優佳の視界には白い天井が見えている。
大きな肩の上に仰向けにされた状態で運ばれているのだ。


ドサッ!


かなりの高さからベッドに転げ落とされた。
身体が半回転するときに、優佳にはソファーにかけられたパンツスーツが見えた。
上着だけのはずが、いつのまに脱いだのか無残に引きちぎられたパンツもそこにあった。


(・・・?!)


もう優佳には何がなんだかわからない。
これが夢なのか現実なのか、判断する能力は失われてしまっていた。
うつ伏せに押し倒された優佳の背中に大きな掌が圧力を加えている。
両腕で身体を起こそうとするのだが、背中の圧力はあまりに強く優佳はピクリとも動くことができなかった。


「や、やめて・・・苦しい!」


ようやく声を絞り上げる。


ビリ!


布の引き裂かれる音が耳に届いた。


(い、いやよ・・・いや。しないで・・・)


頭の中で強く念じてみる。
しかし、もうひとつの大きな掌が容赦なく太腿を引っ張りあげてくる。
全身に力をこめて両脚を閉じようと試みるのだが、虚しい抵抗に終わってしまった。

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