- 名前
- taichi
- 性別
- ♂
- 年齢
- 54歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 正直若いころに比べて女性にに対してもSEX対しても臆病になっているところがあります。...
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しせん
2011年07月09日 12:03
視線(1)
それは夢から始まった。
夢だから必ずいつかは覚めるはずだった。
満員の地下鉄車両からホームに降り立った原田真理はまず大きく息を吐き出すことにした。
一度肺の中を空にした後、今度はゆっくりと肺に空気を送り込む。
確かにエアコンの効いた車両は梅雨のこの時期でも湿気を感じさせることはなかったが、身動きできないほど乗り込んだ乗客は様々な体臭を持っていたし様々な息を吐き出している。
それを考えると真理はいたたまれない気持ちになるのだ。
後ろに立つ中年サラリーマンは何を食べたのだろうか・・・
目の前に座っているOLは誰とキスをしてきたのだろうか・・・
隣でつり革にぶら下がっている熟女は不倫相手のモノを口に含んでいたかもしれない・・・
彼らの吐き出す息が車内に充満している。
嫌でも肺の中に入れなければならないのだ。
耐え難いことだった。
できることならガスマスクをつけたいと思うこともあった。
大きな呼吸を3度繰り返すことで、やっと平常心に戻ることができる。
「ふう~」
3度目の息を吐き出した後、真理は乱れたスカートを直した。
タイトミニのスカートは身動きできない車両の中ではどうしてもずり上がり、自慢できるとは思っていなかったが女友達が褒めてくれる太腿のほとんどが露わになってしまう。
男達が真理の太腿をジロジロと眺めていくことは知っていた。
中には露骨に振り返って確認していくやからさえいた。
そのスカートを直すことよりも、まず汚れた肺を綺麗にすることを真理は優先したのだ。
地下鉄から直接出入りできるショッピングモールのショーウインドウに自分を映して衣類の乱れを確認した真理は、夕飯の献立を考えながら自宅への道を急いだ。
自宅マンションまでの途中にスーパーマーケットがある。
そこに寄って夕食と翌日の朝食、さらには弁当のおかずを買って帰るのが真理の日課だった。
原田真理は餃子で有名な北関東の県庁所在都市出身で、26回目の誕生日を迎えたばかりだ。
父親は高校の国語教師、今は専業主婦になっているが母親も以前は英語の教鞭を取っていた。
地元の公立高校を卒業した真理は無理を言って東京の私立青○学院大学に進学させてもらった。
そのまま東京で就職活動を行い今は都○銀行に勤務している。
大学時代から付き合った恋人がいたが、去年のクリスマスイブに別れている。
彼に新しい恋人ができたことが原因だった。
彼が転勤して、わずか8ヶ月のことだった。
それから半年が過ぎ、ようやく新たな恋を見つけようと思えるようになった。
幸い交際を申し込んでくれる男性も現れた。
まだ返事はしていない。
食材を買い込みスーパーを出た頃に、真理は気がついた。
(誰かに見られてる?)
背中、いや身体全体を背後から見つめられている気がしたのだ。
帰宅時間であるので住宅街の町には多くの人達が歩いている。
だからいつも誰かに見られていたっておかしいことはない。
見るほうもなんとなく見ているだけかもしれないし、少し大きめのヒップが気になっていたのかもしれない。
いずれにしろよくあることで、気にすることではないとも思う。
だが、いつもと違う何かを感じ取っていた。
いつから見られているのだろうか、思い出そうとした。
買い物途中から?
スーパーに入ったとき?
駅を出るときだろうか?
車両から出て深呼吸をしているときから?
わからない。
わからなかったが、もっと前からのような気もした。
このまま後をつけられて自宅を教えるのは嫌だった。
遠回りをして撒いてしまいたいと考えたが、ビニール袋に入った重い牛乳パックを持って歩くのは辛い。
気のせいかもしれないと思うようにして自宅へと歩を速めた。
駅からマンションまでは15分かかる。
買い物をしたスーパーからは10分ほどだ。
OLの一人暮らしでは家賃の高い駅近くに借りることは負荷が大きすぎた。
もともと歩くことの好きだった真理は遠くても家賃の安い方を優先した。
自宅に近づくにつれ人通りが少なくなっていくのは至極当然のことだ。
途中大きな公園があって、その裏手が真理のマンションだった。
公園を突き抜ければあと3分ほどで到着するのだが、陽の落ちた後の公園はなんだか恐ろしかった。
大木の黒い枝葉が風に揺られてワサワサと音を立てている。
ほんの申し訳程度についた水銀灯は、周囲3メートルほどしか照らしてくれていない。
いつもなら気にすることもなく公園を突っ切って帰るのだが、この日の真理は迷った。
背後に感じる視線がまだそのままだったからだ。
公園の入口でいったん足を止める。
そして、ゆっくりと後ろを振り返った。
(・・・)
誰もいなかった。
だが、それがおかしいと真理は思う。
いくら陽が落ちたからといって、この時間にだれも歩いていないなんてことはあるのだろうか?
気持ち悪かった。
だが視線を送る主がいなかったことには変わりない。
(気のせいね。そうに決まってる!)
真理は思い切って公園に足を入れた。
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