- 名前
- taichi
- 性別
- ♂
- 年齢
- 54歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 正直若いころに比べて女性にに対してもSEX対しても臆病になっているところがあります。...
JavaScriptを有効にすると、デジカフェをより快適にご利用できます。
ブラウザの設定でJavaScriptを有効にしてからご利用ください。
しせん
2011年07月10日 22:56
真理は真直ぐ前だけを向いて足を運んだ。
真正面を中心に左右90度、その範囲に全神経を集中させる。
周囲すべてに意識を向けてしまえば、そのほとんどが曖昧になってしまう気がした。
さっき、自分の背後はしっかりと確認してある。
だから真っ暗な前方に意識を集中させようと考えたのだ。
ただ、真理の耳は背後の音を聞き逃さないようにしている。
コツ、コツ、コツ・・・
自分の足音しか聞こえてこない。
(後もう少し・・・)
走り出したい欲求をようやく堪えた。
走ってしまえば、もう逃げることはできない。
どんなに早く走っても視線からは逃れられない。
だから走ってしまうことが恐かった。
(また・・・また誰かが見てる!)
その視線は突如として背中に現れる。
(やだ!やだ・・・)
コツ
コツコツ
コツコツコツ
次第に真理の足が速くなっていく。
ようやく前方に明かりが見えた。
真理の住むマンションのエントランスだ。
・・・
4階に位置する部屋に飛び込むと後ろ手にドアロックを閉めた。
下駄箱の上のスイッチを手探りで見つけスイッチを入れる。
明るい部屋は安心感をもたらすのだが、真理はこの瞬間が好きではなかった。
何物かが潜んでいたら・・・と考えてしまうのだ。
真っ白な蛍光灯が部屋を照らした。
どうやら何も潜んではいないようだ。
「ふう~」
ここでようやく大きく溜めた息を吐き出すことができる。
リビングには公園に向かって大きな窓が開いている。
小さなベランダもついていた。
真理は閉められていたレースのカーテンを少しだけ開けて、自分の歩いて来た公園を注視した。
黒々とした大木が揺れている。
水銀灯に照らされた小さな円形の中だけは薄暗く見える。
(・・・なに?)
マンションに一番近い水銀灯、その根元に何かがある。
球形の物体だった。
白地に黒い斑点があった。
(サッカーボール?)
きっと子供が忘れたサッカーボールだろうと真理は思った。
バシャア!
モスグリーンの遮光カーテンを勢いよく閉めた真理はキッチンに向かった。
(簡単に済ませよう・・・)
ハンバーグなら明日の弁当のおかずにもなると買い物をしてきたのだが、その気持ちにならなかった。
ひどく疲れて作るのが面倒だった。
(何かないかな・・・たしかレトルトの)
レトルトのカレーとフランスパンでいいやと思った。
・・・
瞳を閉じて温めの湯にゆっくりと浸かっていると、ようやく落ち着くことができた。
頭をバスタブの縁に、長い脚を反対側の縁に乗せていた。
真っ白な肌に豊かなバストとヒップ、その間にはしっかりくびれたウエストがある。
肩までかかる黒髪の毛先が湯の中に浸かっていた。
(ふ~いい気持ち・・・)
お湯は真理に安堵感を与えてくれたが、同時に眠気ももたらした。
パシャ・・・パシャ・・・
眠ってはいけないと両手でお湯をくみ上げて肩にかけた。
しかし眠気はどんどん強くなっていく。
(だめ・・・眠ったらだめ!)
真理は重い瞼を開けようと試みる。
(あれ?)
まるで接着剤で貼り付けられたように開かない。
(まずい・・・)
真理は両手にお湯をすくって顔を洗った。
二度、三度と顔を洗う。
「ふう~」
大きく息を吐き出して勢いよく瞼を開いた。
油断しているとまた眠ってしまうと思った真理は湯船から出ることにした。
バシャ!
溜まったお湯を零しながら立ち上がる。
(・・・なに?)
何気なく目をやったユニットバスの上隅に何かがあった。
立ち上がる湯気でその正体はよくわからなかったが、確かに何かあった。
(ボール?)
水銀灯の根元に転がっていたサッカーボールを思い出した。
しかし、サッカーボールほどの大きさではない。
もしユニットバスにサッカーボールがあればいくらなんでもすぐに気がつくはずだ。
(もっと小さいよね・・・)
真理は手の甲で目をこすってみる。
(・・・!)
「あっ、あああ」
そこには目があった。
白い球体の真中に黒い円。
さらにその中心にはもっと黒い穴が開いていた。
それは眼球だった。
黒い穴は真理の裸体をジッと見つめていた。
「キ、キャアーー!」
真理は叫んだ。
このウラログへのコメント
コメントを書く