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愛の錯覚① ― それでも人は誰かを選ぶ ― 好きという幻想

2026年03月28日 01:33

愛の錯覚① ― それでも人は誰かを選ぶ ― 好きという幻想

第1回:好きという幻想
― その夜、恋はどこで生まれたのか ―

一晩を共にしただけで、
相手を「特別な存在」だと感じてしまうことがある。

ほんの数時間前までは、ただの他人だったはずなのに。

けれど、それは本当に「相手」を好きになったのだろうか。

それとも、触れた体温や、交わされた言葉や、
その瞬間に生まれた「意味」に、心が反応しているだけなのだろうか。

人は時に、相手ではなく、
「そのときの自分の感情」に恋をする。

1. 偶然という罠
香織(32)が、その夜、同僚の遼(28)と一線を越えたのは、
いくつかの偶然が重なった結果に過ぎなかった。

長年付き合った恋人に振られたばかりで、
心が酷く脆くなっていたこと。

職場飲み会で隣り合わせ、
同じ地方出身だと知ったこと。

そして、普段のぶっきらぼうな態度からは想像もつかないほど、
濡れた瞳で自分を見つめてきたこと。

香織さん、俺……ずっと、いいなって思ってました」

その一言が、弱り切った彼女の心の隙間に、
驚くほど滑らかに滑り込んだ。

もし彼女が満ち足りていたなら。
もし彼がもっと軽薄な男だったなら。

もし二人の間に共通点がなかったなら。

この夜は、生まれていなかった。

二人の間に生まれた熱は、
運命ではなく、
タイミングと状況が用意した舞台だった。

2. 未完の距離
ベッドの中で、遼の指先が香織の髪をなぞる。

その手つきは慎重で、
まるで壊れ物を扱うかのようだった。

触れ合っているのに、どこか遠い。

その「手に入りそうで、完全には手に入らない」距離が、
香織の心を強く揺さぶった。

もし彼が最初からすべてを曝け出し、
従順彼女へ寄りかかっていたなら、
ここまで惹かれることはなかっただろう。

彼は、ちょうどいい余白を持っていた。

その余白に、香織は自分の理想を重ねていく。

沈黙を「思慮深さ」と呼び、
不器用さを「誠実さ」と信じる。

彼女は遼という男を見ているのではなく、
彼という輪郭の中に、
「愛される自分」を描いていた。

3. 感情の正体
「俺たち、これからどうなるんですか」

遼の問いに、香織は答えなかった。
ただ、彼の背中に回した手に、わずかに力を込めた。

その瞬間、彼女の中で「好き」という感情が確かに灯る。

けれど、その正体は、
純粋な愛ではなかった。

優しさへの安堵。
共通点への高揚。
一度関係を持ったことによる意味づけ。

それらが重なり合い、
脳が「これは恋だ」と解釈しただけのこと。

香織は、遼を好きになったのではない。

遼という存在によって引き起こされた、
自分の内側の「意味」に惹かれていたのだ。


結び
私たちは、人を好きになっているのではないのかもしれない。

“好きになってしまう状況”に、
心が反応しているだけなのかもしれない。

「好き」という感情は、
理由のあとから立ち上がる。

そしてそれは、
思っているよりも、ずっと曖昧で、脆い。

香織はまだ、
その心地よさの中にいる。

それが錯覚だと知るのは、
もう少し先のことになる。

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