- 名前
- マーク
- 性別
- ♂
- 年齢
- 59歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- プロフィール見てくれて、ありがとう。 セカンドパートナーを探してます。 好奇心も性欲...
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第21章:届かない一ミリ
2026年03月10日 01:52
ゆうは、すでに転勤の準備をすべて終えていた。
一週間前からホテル住まいとなり、マンションは引き払った。
残されたのは、ベルリンへ向かう数個のスーツケースだけだった。
彼にとっての日本は、いまやこのホテルの客室という、仮初めの箱の中にしか残っていなかった。
「出国前日の二十時。私のホテルで」
ゆうからの短いメッセージに、みおはそれだけを了承した。
当日。
東京は冷たい雨だった。
みおは、誰にも見せたことのない高揚と、すべてを捨てる覚悟を胸に、ホテルへ急いでいた。
フロントを抜け、エレベーターに乗れば、そこにはゆうがいる。
日常のすべてを脱ぎ捨てた場所で。
(あと、少しで……)
そのとき、バッグの中でスマホが鳴った。
画面には、知らない番号。
「……はい」
受話器の向こうの声は、落ち着いていた。
直樹が事故に遭い、病院へ搬送されたという。
みおは、しばらく何も言えなかった。
エレベーターの鏡に、着飾った自分の姿が映っている。
まるで、別人のようだった。
指先が震え、スマホが急に耐えがたい重いものに変わっていく。
(……いまだけは)
そんな思いが、胸の奥で一瞬だけ浮かび、すぐに沈んだ。
「……奥様、聞こえていますか?」
病院のスタッフの、落ち着きすぎた声。その冷徹なまでの冷静さが、みおを無理やり現実に引き戻した。
「……すぐ、向かいます」
電話を切ったあと、みおはスマホを握ったまま立ち尽くした。
そして、ゆうに一行だけ送った。
『ごめんなさい。行けなくなりました』
少しして、既読が灯った。
それ以上の言葉は、なかった。
外に出ると、雨はまだ降っていた。
みおはタクシーを拾い、病院へ向かった。
ホテルの上層階には、まだ灯りが残っていた。
その距離は、ほんの数十メートルだった。
けれどその夜、
二人のあいだの「一ミリ」は、最後まで埋まらなかった。




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