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第16章:分水嶺

2026年03月05日 09:10

第16章:分水嶺

朝食の席に、二人の姿はなかった。
互いに相手を避けるようにして時間をずらし、逃げるようにチェックアウトを済ませた。
福島の駅へ向かうバスの窓から見える景色は、昨日と同じ雪景色なのに、もう何の意味も持たなかった。

みおは実家のある秋田へ、ゆうは東京へ。
それぞれの帰路へ着く前の、わずか一時間。二人は同じバスに乗り込んだ。

車内は、日常の喧騒に満ちていた。数列離れた座席。
みおは、通路を挟んだ斜め後ろに座るゆうの気配を、背中で感じていた。
昨夜の、あの黒い湯面での指先の熱が嘘のように、車内の空気は乾燥し、白茶けている。

(声をかけたい……)

喉の奥まで言葉がせり上がってくる。けれど、口を開けば、昨夜守り抜いたあの「静寂」が、安っぽい不倫の物語に成り下がってしまう気がして、動けない。

ゆうもまた、前の座席に座るみおの後頭部を見つめ、幾度となく立ち上がろうとしては、膝に置いた拳を握りしめていた。
近づこうとするたび、日常という名の薄い壁が、二人の間に立ちはだかる。
彼はただ、窓の外を流れる冬の枯野を見つめるしかなかった。

時間は無情に流れる。

福島駅のホーム、列車が滑り込むと、二人はどちらからともなく席を立った。
デッキへと向かう群衆の中で、一瞬だけ、二人の距離が再び「一ミリ」に近づく。

だが、視線は合わない。

合わせれば、もう二度と離れられなくなることを、お互いに知っていた。
ゆうの視線が、わずかに揺れた。
その揺れに、みおは気づいていた。
みおはそれに応える代わりに、深く、一度だけ目を閉じた。

ホームに降り立つと、みおは北へ向かう新幹線へ。ゆうは、南へと走り出す列車へ。
背中を向けたまま、二人は歩き出した。
振り返る者はいなかった。
それでも、どちらも振り返らなかった理由だけは、同じだった

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