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未完の関係①―不倫よりも厄介な関係

2026年03月24日 02:23

未完の関係①―不倫よりも厄介な関係

不倫よりも厄介な関係

不倫は、分かりやすい。
触れて、壊して、失う。
だから終わる。

肉体が触れ合い、日常が軋むという「現実」があるからこそ、
それは、「過ち」として、いつかは人生の棚に整理できる。

けれど――

由美と洋一の間にあるのは、
それよりも遥かに厄介なものだった。

何も起きていないのに、終わらない関係。

二人の間には、三十年分の「幼なじみ」という
清廉な月日が横たわっている。

四半世紀以上、
一度も一線を越えなかった。

だからこそ、終わらせる理由すら見つけられないまま、
今も互いの人生を静かに侵食し続けている。

触れていない。

「由美、飲みすぎだぞ」
「洋くんこそ、また顔赤い」

周囲が微笑むような、ただの幼なじみの会話。

その裏側で、二人は互いに知っている。

並んで歩くときの、
あの数センチの隙間に流れていた熱を。

それは、決して友情と呼べるほど
乾いた距離ではなかったことを。

一歩踏み出せば、すべてが壊れると知っていた。

共通の友人。
親同士の付き合い。
積み上げてきた思い出。

だから、踏み出さなかった。

その正しさが、形を守った。

そして、終わる機会だけを失わせた。

不倫には、残酷なまでの「現実」がある。

時間は削られ、
身体も摩耗する。

やがて、どこかで限界が来る。

現実に削られるからこそ、
それはいずれ過去になる。

けれど――

由美と洋一には、その限界が存在しない。

触れていないから、失われない。壊していないから、終止符を打つ理由もない。

現実に削られない分、
二人の関係は摩耗することなく、

むしろ「もしも」という純粋な想像の中で研ぎ澄まされていく。

触れていない温度は、
いつまでも「最も都合のいい熱」として記憶に焼き付く。

二十歳の夜。
終電を逃した駅のベンチ。

言わなかった言葉。

それは拒絶されることもなく、
傷つくこともなく、

肯定されたまま、
心の中で澱(おり)のように積もっていく。

「もし、あのとき。もし、もう一歩だけ」

そんな仮定だけが、
今のそれぞれの家庭や現実よりも確かな輪郭を持ち始める。

触れなかった指先の疼きが、
どんな実在の愛撫よりも、
生々しく内側を掻き乱す。

それは日常の、ふとした瞬間に牙を剥く。

人混みの中で、
似た広い背中を見かけたとき。

何気ない仕草の中に、
昔と変わらない癖を見つけたとき。

あの日踏み出さなかった「正しい一歩」が、
静かに、けれど激しく疼き出す。

あれは、本当に正しかったのか。

それとも、失うのが怖かっただけなのか。

考えても答えは出ない。

そもそも、何も起きていないのだから、
検証する術さえ残されていない。

不倫は、いずれ過去になる。

傷跡を残しながらも、
終わった事実として沈殿していく。

けれど――

由美と洋一の関係は、
いつまで経っても過去になりきらない。

触れなかったあの距離だけが、

三十年の月日の中で形を変え、色を変え、

今も、そしてこれからも、

消えないのではなく、
消せないまま、そこにある。

このウラログへのコメント

  • すみれ 2026年03月24日 14:46

    なるほど

  • マーク 2026年03月24日 15:41

    > すみれさん

    コメントありがとうございます。
    シリーズで、4回の予定てす、お楽しみ下さい。
    ②壊れなかった関係
    ③触れなかった代償
    ④一度だけの重さ

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