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反転の輪郭 ④ ― 崩壊する聖域 ―

2026年04月23日 06:03

反転の輪郭 ④ ― 崩壊する聖域 ―

第4話:崩壊する聖域 ― 共有される毒 ―


朝と夜の境界が、曖昧になっていた。

ペントハウスの広い窓から差し込む光は、
もはや時間を告げる指標ではなく、
ただ室内の「停滞」を暴き出す装置に成り下がっていた。


カイは鏡の前に立ち、ネクタイを締めようとして、その手を止める。

首筋に残る微かな熱。

それはかつて彼が彼女に刻んだ「所有の印」ではなく、
今や彼自身をこの部屋に繋ぎ止める、見えない鎖の感触だった。


リナはソファに座り、本を読んでいた。

かつての「跪く人形」の面影はない。
かといって、勝利を誇示する女王でもない。

ただ、空気のように、そこに在る。


カイはその背中に向かって何かを言おうとして、やめた。

彼女の肯定を、喉が焼けるほどに渇望していることを、
認めるのが怖かった。


夜、寝室。

灯りを点けることもなく、
二人の肉体は引き寄せられるように重なった。

そこにはもはや、命令も予感もない。
ただ、互いの欠損を埋め合わせようとする、執着だけが残っている。


ふとした瞬間、
カイはリナを突き放すように、わずかに身体を離した。

絡み合っていた肢体がほどけ、
その隙間に冷たい夜気が滑り込む。

暗闇の中で彼は、自分がまだ「個」であることを、
出口の在処を、一瞬だけ確かめようとした。


だが、リナは追わなかった。

ただ、離れていった体温を惜しむように、
自分の肩を抱いて静止している。

その「追わない」という沈黙が、
どんな拒絶よりも深く、カイの内側を抉った。


一秒。二秒。

耐えきれなくなったのは、カイの側だった。

彼は再び彼女を、
先ほどよりも強く、折れんばかりの力で抱き寄せる。


リナの肌はカイの汗を吸い、
彼の吐息を飲み込み、
彼の一部のように脈動する。

どちらの心拍が早いのか。
どちらの指が震えているのか。

境界は、汗と熱の中で、静かに溶けていく。


「……リナ

その名は、もはや命令ではない。
自分の存在を証明してもらうための、祈りに近かった。


リナは何も答えない。

ただ、彼の背中に爪を立て、
その問いを、身体の奥へと封じ込める。


支配の城壁は、内側から崩れ落ちた。

残されたのは、
相手を道連れにしなければ呼吸もできない、二人の共犯者だけ。


カイは、自分の背中を回るリナの腕を、さらに強く引き寄せた。

振り払う理由は、もうどこにもなかった。

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