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第3章:熟した芳香

2026年03月14日 01:51

第3章:熟した芳香

重なった唇が離れたとき、二人の間には、先ほどよりもさらに重い、熱を帯びた沈黙が流れた。

ケンイチの鼻腔を突いたのは、クミの項(うなじ)から立ち上る、濃密な残り香だった。それは若い娘の弾けるような石鹸の匂いではない。数多の夜を数え、喜びも悲しみもその肌に吸い込ませてきた女だけが持つ、どこかパウダリーで、それでいて生々しい「熟した芳香」だ。

クミは、ケンイチの胸にそっと額を預けた。その拍子に、彼女の豊かな髪がケンイチの頬をなでる。

ケンイチさん……私、ずるい女だって思ってる?」

クミの言葉は、独り言のように小さく、けれど鋭くケンイチの鼓膜を震わせた。ケンイチは、彼女の背中を愛撫していた手を一度止め、それからゆっくりと、さらに深く彼女を抱き寄せた。

「……どうしてだ?」

「だって、私はあなたの持っている『余裕』を求めている。あなたが積み上げてきた時間や、その結果として手にした平穏……それを、私の若さと引き換えに奪おうとしているみたいで」

ケンイチは、クミの言葉の裏にある切実さを感じ取っていた。
その重さが、彼の胸の奥に静かに沈んでいく。

だが、今のケンイチにとっては、その「求められること」自体が、何よりも心地よかった。

「クミ、それは僕も同じだ。僕は君の若さに触れることで、自分の中の、もう二度と戻らない時間を呼び戻そうとしている。……これは、お互い様なんだよ」

ケンイチの節くれだった指が、クミの顎を静かに持ち上げた。潤んだ瞳の奥には、一抹の不安と、それ以上に深い熱が揺れていた。言葉にできないほどの高揚が、今、この逃れようのないエロスとして二人の間に立ち上がっている。

「……いいわ。今夜は、お互いの持っているものを、全部使い果たしましょう」

クミの囁きとともに、二人の身体はどちらからともなく、背後のベッドへと沈んでいった。シーツが擦れる音が、夜の静寂(しじま)に鋭く響く。

ケンイチは、クミの髪に残るその芳香を胸いっぱいに吸い込みながら、理性が完全に溶けていくのを感じていた。
重なり合った肌から伝わる、熱い拍動。その「体温」が、これからの長い夜に刻まれる記憶の、確かな始まりだった。

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