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第15章:冷却章

2026年03月04日 02:27

第15章:冷却章

指先から伝わっていた熱が、不意に断ち切られた。
どちらが先に動いたのかは分からない。
ゆうが、あるいはみおが、重い水圧を割って、ゆっくりと立ち上がった。
肌を滑り落ちる湯の音が、静まり返った浴室に雨音のように響く。

湯から上がった瞬間に襲ってきたのは、冬の深夜の、容赦ない冷気だった。
火照っていた皮膚が急速に冷やされ、粟立つ。それは、夢から強引に引き剥がされるような痛みでもあった。

二人は、脱衣所へ向かう間も、視線を交わさない。
先ほどまでの、湯の揺れを通じて溶け合っていたあの親密さは、厚いタオルの下に隠された。
鏡に映る自分の顔は、驚くほど青白い。

廊下に出ると、そこには再び、古びた旅館の静寂と、逃げようのない現実が待ち構えていた。
それぞれの部屋へ続く、分かれ道。

「……おやすみ」

ゆうの、低く、掠れた声。
「お先に」でも「さよなら」でもない、明日もまた続いてしまうことを暗示するような、残酷なほどに穏やかな挨拶。

みおは、ただ小さく頷くことしかできなかった。
数歩歩いて、自分の部屋の襖に手をかける。
背後で、ゆうの足音が遠ざかっていく。

物理的な距離は、いま、数メートルにまで戻った。
だが、みおは知っている。
あの黒い湯面で、指先から流れ込んできたあの熱を知る前には、もう二度と戻れないことを。

服を着て、髪を乾かし、明日にはまた「妻」としての仮面を被らなければならない。
けれど、体内の深い場所に刻まれたあの「揺れ」は、冷えるどころか、ますます確かな違和感となって、彼女を日常から切り離していく。

襖を閉め、布団に潜り込む。
冷たいシーツが肌に触れるたび、先ほどの湯の熱が、呪いのように、恋しくなった。

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