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未完の関係②―壊れなかった関係

2026年03月25日 02:09

未完の関係②―壊れなかった関係

第2回 壊れなかった関係
― 静かに壊れていく内側 ―

壊れた関係は、分かりやすい。
砕けて、戻らない。
だから終わる。

けれど――

壊れなかった関係ほど、扱いに困るものはない。

何も起きていない。
何も壊していない。

それなのに、どこかがずっと歪んだまま、どうしても元に戻らない。

由美と洋一の間には、それぞれの人生の大半に、
一点の曇りもない歳月が積み上がっている。

親戚のような親密さと、同僚のような信頼。

「何もなかったわけではない」と互いに知っていながら、
二人はそれを「友情」という便利な言葉でパッキングし、
大切に保管してきた。

この曖昧さこそが、二人の間にある最も純度の高い、そして最も毒性の強い成分だった。

私たちは、壊さないことを選んだ。

幼なじみ」という聖域を守るために、
理性の手綱を一度も緩めなかった。

一線を越えそうな夜は、どちらからともなく冗談を言って、
その熱を笑い飛ばしてきた。

壊さなかったという自負。
正しくあろうとした理性。

それが二人の絆を守ったはずだった。

けれど――

壊れていないはずの関係の、内部だけが、
音もなく壊れ始めていた。

外側からは、相変わらず仲の良い、理想的幼なじみに見えるだろう。

だが、その内側では、
抑圧し続けた「もしも」という質量が、逃げ場を失ってドロドロに溶け出している。

形を保っているからこそ、逃げ出すこともできない。

修復する必要がないまま、
歪みは深くなる一方で、
誰にも気づかれないまま、腐っていく。

それは、触れなかった指先にこそ宿る。

グラスを受け渡す瞬間の、
触れそうで触れない距離。

見なかったことにした、
あの夜の彼女の潤んだ目線。

喉元まで出かかって、
一生の沈黙へと追い込んだ「好きだ」という一言。

直接的な接触よりも、
その「抑圧された残像」の方が、
今の二人を激しく、淫らに結びつけている。

肌を重ねるよりも深く、
触れなかった記憶が、互いの輪郭をなぞり続けている。

何もなかったはずなのに、
胸の奥には消えない違和感が居座っている。

それぞれの家庭に戻り、
別の誰かの隣に座っても、
その空白は決して埋まらない。

むしろ、誰かに触れられるたびに、互いに、あの時の「触れなかった温度」を
鮮烈に思い出してしまう。

代わりのきかない欠落。

それは、現実の浮気よりもずっと深く、
伴侶への裏切りに近い。

壊れなかった関係は、美しい。

いつまでも綺麗で、無垢で、誰にも汚されない。

けれど――

壊れなかったまま、
その関係はどこまでも歪み続ける。

正しさを貫いた代償として、

二人は一生、
完成することのない理想という名の「歪な愛」を、

抱えたまま、
手放すこともできずに、

日常を歩き続けていく。

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