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So Long, Farewell

2008年03月19日 00:19

So Long, Farewell

下町育ちの
さして親しくはなかったけれど
侠気溢れる先輩に
会う約束をし、
身支度のまえにまず
シャワーを浴び
しばらく眺めてもいなかった顔を
まぢまぢと見つめると
後ろ髪ともみ上げの場所に
悲しいやつれが棲みついていて

なるほど、それはそうだろう
なんにも顧みる余裕なんて
とてもぢゃないけどなかったわけだから。

悶え
苦しみ
のたうちまわっている間も
ずっと頭にあった髪の毛

きっぱりと冬に別れを告げようと
よほど坊主になろうとしたら

「それだけはやめてくれ」

鏡からそんな声が聞こえ

身体髪膚、これを父母に受く?

ほっといてくれよ、
これは自分のものなんだ、
もうおふくろはとうにいないわけだし、
なんて、言い争いが始まって

ならば短くしてピンクに染めるといったら

「それだけは、やめといたほうがいい」

今度はお店の鏡でカットのお兄さんが
ヘアブラシと鋏を腰に
どことなく哀れみ加減

またしてもほっといてくれ、と思ったが
なんだか手入れもめんどくさそうだ。
なのでともかく
うなじがひゅうひゅうするぐらい、
短くした。

気持ちぃなぁ。

目論んでいた手土産菓子店は休業で
仕方なく季節外れの葛餅を購い
赤坂オフィスを訪ねると

大好物だよ、
一年中

お愛想でも、うれしいぢゃないか。
ほんとにおいしそうに
ぱくついてくれて。

三年の間
どうしていたのか
めんどくさいけど
かいつまんで話す

途中、懐かしい固有名詞が飛び出したり

調子に乗って
ちょっとしゃべりすぎた。
会社の昔話とか、
もう何年も話していないような。

ボクらしくもなく。

約束の刻限を過ぎ
外に出ると、
あれ、これはいったい
なぜだろう?
潮風のにおいがして
すぐに消える

なんども撮り、
なんどもそれを送りもした
建設途上の高層ビル
フェンスの向こうで
ヘリポートを頭に載せ
もう30階は、はるかに越え
高さとしては
てっぺんに届いたことを
見上げるボクに教える

何かが終わった
ピリオド
節目というやつだ

靖国神社の桜が5つ
開いたときをもって
開花宣言
今日がその日だった

春の訪れというよりも
冬の名残を振り捨てて
何かが終わって
何かが始まってゆく

人それぞれの
胸のうちに
それぞれの
冬の終わりを潜ませて
背中合わせに、春の夢

あとはあの
本当の潮の香りをはらんだ風が
吹かぬでもない街の
あの居酒屋
天麩羅でも食べれば
そんで、春

そういうことに決め
それがボクの
開花記念日

その日を限りに
きれいさっぱり
長かった冬とお別れしよう

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