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官能小説

2011年06月25日 13:06

幸介との待ち合わせは東京駅長野行き新幹線だ。
メールには発車時刻・車両・座席番号まで指定されていた。
涼子はそのメールを保存した。



午前11時東京発。
涼子東京駅に着いたのは発車10分前だった。
ホームに駆け込み、とりあえず列車に飛び乗った。
新幹線内を指定車両に向かって歩いて行くと家族連れの観光客が多いようだ。
夏の土曜、軽井沢にでも行くのだろうか。
指定された車両グリーン車だった。
他の車両と違って、乗客はまばらだ。
指定座席にたどりつくと、幸介が待っていてくれた。


幸介は涼子から赤いボストンバックを受取ると網棚に乗せ窓際の座席に座らせてくれた。
中央通路を挟んだ隣りは空席だ。
さすがにグリーン車両だけあって十分に脚を伸ばせる。
ひとしきり挨拶を済ませた後、涼子は聞いてみた。


「あの、料金は・・・」


それなりの金額は用意してきたのだが、グリーン車であったりして心配になるのも無理はない。


「ええ、診察になったらいただきますよ。もちろん健康保険の適用で・・・。」


幸介は笑いながら答えた。


(そうか、お医者さまだったんだ・・・)


涼子は単なる出会い・サイトでの浮気だと思っていたのだ。


新幹線上野駅を通過し地下から地上に顔を出したころ、幸介が涼子の右手を取った。



涼子さんリラックスして楽しみましょう」



「ええ」



男性に手を握られたのなんて何年ぶりだろうと思いながら笑顔を作った。

それをきっかけに幸介の観察を始める。
イメージしていたより若かった。
白いポロシャツ胸元が嫌味なくあけられ、適度に日焼けした胸の筋肉がのぞけそうだった。
髪はナチュラルに短く手入れをされていた。
目は切れ長の一重で笑顔になると若干目じりが下がる。
その下には印象に残る大きな鼻があった。
焼けた顔に並びのいい真っ白な歯が光っている。
二枚目ではないが、男の魅力を十分持っていると思う。
涼子はその笑顔に好感を持ち始めていた。



涼子さん、僕の小説どうだった?」



左手涼子の膝に乗せながら幸介は聞いた。
そして、その左手がゆっくりと太ももを上昇する。
涼子は形ばかりの抵抗を試みるが、太ももから送り込まれてくる信号に心地良さを感じ始めていた。
花柄のワンピースの裾は脚の付け根近くまでめくられてしまっている。


感想聞かせてよ・・・」


耳もとに囁かれる。


「うん。昔の彼を思い出しちゃった。」


涼子は軽く瞳を閉じて話し始めた。



涼子の実家は北陸京都と呼ばれる歴史のある町で呉服屋を営んでいた。
小さいながらも創業100年をこえる。
幸い涼子には姉がいて、店は姉が継いでくれていた。
涼子小説家を目指して上京し、市谷にある私大の文学部に入学した。
高校時代から書き始めた私小説は大学にはいって本格的になり、出版社に原稿を送ったこともある。
古都に生きる小説家を目指す小女の話だった。
初恋をあきらめて上京する少女に自分を重ね合わせて書いたものだ。

大学4年のとき、原稿を投稿した出版社の社員から連絡があった。
それが徹だった。
涼子より3歳上の徹も出版社に勤めながら小説家を目指していた。
彼も地方からの上京組みでお互いの気持ちがよくわかった。
同じ目標をもつ二人はすぐに意気投合し、恋に落ちるのにさして時間はかからなかった。
交際を始めてひと月で徹は涼子下宿に転がり込んだ。


涼子もそれが自然に思えた。
いつもいっしょにいたかったのだ。
涼子は大学に通い、徹は出社する。
わずかだが徹も生活費を渡してくれていた。
夜はそれぞれ創作に打ち込んだ。
そして徹は毎晩必ず涼子を求めた。


体の相性も良かったのか、涼子は徹を違和感なく受け入れることができた。
徹の性・技が涼子の身体を開発してくれた。
どこを触れば悦ぶのか。
いつ挿入すれば歓喜してくれるのか。
すべてを徹は知ってくれている。
熟し始めた身体は、涼子に女の幸せを教えてくれた。
それが徹のおかげだと信じて疑わなかった。
そんな充実した毎日だった。

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