- 名前
- 純生くん
- 性別
- ♂
- 年齢
- 59歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 心の病気で引きこもっており、ほとんど外出もしてません。 デブなおじさんに興味のある方...
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ある夏の物語
2011年04月05日 14:23
まだ私が少年の殻を破れていなかった頃、ある夏休みの一日、ある女の子から電話が入った。
「これからうちに来て、一緒に夏休みの宿題でもやらない?」
彼女とは中学時代には仲良くはしていて、私はほのかな恋心を抱いていた存在だ。
残念ながら、高校は別々のところになってしまったが。
女の子からお誘いの電話!
私の頭はパニック、沸騰、公私混同。
「う。。。うん、じゃあ、今から行くよ」
それが精一杯の答えだった。
いそいそとよそ行きの服を選んで、彼女の家に向かう。
彼女の家が近づくほどに早足になっていく。
彼女の家に着くと、庭先の犬小屋では大きな犬が眠っていた。
その傍らでおじいさんが庭掃除をしていた。
私に気づくと、「□□の友だちかな?何か御用かな?」と彼女のひとつ年下の弟の名前をあげた。
「い。。。いえ、○○さん、はご在宅ですか?」と私は慌てて彼女の名前を告げる。
おじいさんは訝しそうな顔をして、私を見つめた。
その時、玄関のドアが開いて、彼女が飛び出してきた。
「あ、いいのいいの。早く入って」と手招きする。
「お。。。お邪魔します」とおじいさんと目を合わさず会釈をしながら、私は家の中に入った。
彼女についていくと、彼女の部屋に通された。
冷房の効いた、ひんやりとした空気が私を包む。
小さめのテーブルに座布団が用意してあり、彼女に促されてそこに座る。
「久しぶりだねー」
卒業以来だから4ヶ月ぶりくらいだろうか。
少し大人びた雰囲気の彼女に、どぎまぎした。
彼女が冷たいお茶を持ってきてくれて、少しお互いの高校の話をした。
4ヶ月の空白を埋めるように、いろんな話をした。
宿題のことなど忘れてしまった。
ふと彼女の部屋の中とはいえ、家の中が静かなことに気づいた。
そういえば、玄関先に家族の靴が見えなかったな。
ということは。。。今は家に彼女と私のふたりだけ。。。(おじいさんは黙殺)
お喋りに一息つくと、蝉の鳴き声だけが妙に耳につく。
しばし2人黙ったままだった。
彼女を見つめる勇気も無かった。
「じゃあ、そろそろ宿題でもやろうか?わからないところある?」私が沈黙を破った。
バカだ。
大バカ者だ。
家に2人っきりのシチュエーション(おじいさんは黙殺)。
彼女の部屋。
ほのかな恋心。
これ以上の舞台設定がどこにあるのだ。
でも、私には1歩を踏み出す勇気がなかったのだ。
少年の殻を破れなかったのだ。
それからのことはよく覚えていない。
何か宿題をしながら、頭の中では後悔の念だけが渦巻いていたような気がする。
日が傾いて、彼女が「そろそろ家族が帰ってくるから。。。」と言った。
私は後ろ髪を引かれつつ、家を辞した。
玄関で彼女は見送ってくれた。
「じゃあ、またね」
もう、こんな機会は無いかも知れない。
彼女の笑顔がちょっと寂しそうに見えたのは、私の思い過ごしだろうか。
玄関のドアの閉まる音を背中で聞いて、「ふう」と思わずため息をついた。
庭にはもうおじいさんの姿はなかった。
一世一代の不覚だっただろうか。
そんな思いで、しばし足が動かなかった。
そんな私の足元で、大きな犬が「ワン!」と吠えた。
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