ウォー・ヴェテラン　　フィリップ・Ｋ・ディック中短編集

またまたPHディックです。仁賀克雄の訳で、ヴァリスなどをべつにするとこれも安心できるところです。
映画「ＮＥＸＴ」がまたまたディックの原作らしくて、本当に映画原作によくつかわれます。もっとも彼が生きている間は「ブレードランナー」しか製作されていなかったのですから、ディックとしたら、「もっと早く注目してほしかった」でしょうし、映画の特撮技術の進歩があったからこそディック原作の映画化が可能になったのでしょうから、しょせんディックの生存時にはこれほど映画化するのは無理だったのでしょう。
　例によって、自分の非同一性が主題だったり、信頼しているものが崩れ去ったりする調子のＳＦです。ただ、この中短編集は最初の「髑髏」を別にすると「造物主」「生活必需品」「トニーとかぶと虫」「火星人襲来」「ウォー・ヴェテラン」とすべて、地球人が他の宇宙人（それがもともと地球から他惑星にいって別進化をたどったり、それまで共同に暮らしていたり、もとの地球人を支配しようという進化した地球人だったりといろいろですが）と戦争行動をおこす作品です。しかもそれらがすべて、戦争そのものより、その意味に関する考察に富んだものになっています。
　作品自体の完成度はそれほどではないのですが、十分ディックを味わえました。