- 名前
- ハレイワビーチ
- 性別
- ♂
- 年齢
- 53歳
- 住所
- 静岡
- 自己紹介
- 裏ログはなんとなしに書き始めた私小説が大半を占めますが、途中から自分のために書き続け...
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ダヴィデの○ニス・・3
2011年10月05日 21:39
当時ぼくが所属していた造形2科のアトリエは天井が高くまるで工場のような建物だった。
高窓から入る光が空間の脇に所狭しと置かれている作りかけの石膏で型を取った人物の彫刻や、ひび割れかけた粘土の雛形を浮かび上がらせている。
その中央に木のひな段が置かれ、瑞々しい女性が一糸纏わぬ姿でポーズをとっている。 彼女は他のモデルには見られないのだが、ポーズ中はいつも活き活きとした表情を保っていた。
なにか今日の彼女は元気がないように見えた。 いつもまわりに気を使いポーズの休憩の合間にはガウンを纏って、余裕があれば学生が描いている絵や彫刻を見てこれわたしに似てないよね、とか楽しんでいる姿がなく、今日は心なしか沈んでいた。
女性には特別な日があるということは聞いたことがあったので、ぼくは特段気にはしなかった。 ぼくにとっては今日は待ちに待った彼女とのデートだったから20代の若者特有の自己解釈で今日のポーズの終わりを楽しみに待っていた。
ポーズが終わり、なにやら教授と話しをして取り込んでいるので、ちょっと彼女に目配せをしてアトリエを出た。
約束の夕方まで待ち遠しくて仕方なかった。
国立の南口に降り立ったのは約束の時間の20分も前だった。
3本目の煙草をくわえた時に彼女が改札から出てきた。
長い髪にTシャツを重ね着て、ジーンズがよく似合う。 胸元には繊細なデザインのネックレスに細い腕にはシルバーの腕輪をいつもしている。 何が入っているのか、いつもかなり年季の入ったトートバッグを肩から提げている。
「あ、このバッグね、すごいでしょ。モロッコのスークで買ったのよ。 あ、スークって向こうで市場っていうのね」
そこの市場って革製品が有名で革をなめしてる匂いがものすごくて、めまいがするとかいうエキゾチックな話しを聞いているだけで、彼女がどこかまったく違う国のひとのような感じでぼくのなかでイメージされていた。
間口の狭いビルの入り口を2階に上がると、とても不思議な香りのお香が匂ってきた。 重厚な木の扉を開けると中は薄暗く、5つのテーブル席のひとつにカップルがうつむき加減に話しをしている。 ぼくらはカウンターに座り、彼女はモヒートを注文した。 彼女の旅の話しが再開されぼくはそれに引き込まれていた。
彼女の旅の話しは、いきいきとして聞こえたが、段々その中に大きな憂いがあることに気づいた。
行き先は様々で、南米から欧州、北アフリカ、東南アジアを行ったり日本に戻ったりしていたらしいかった。
友人と旅を始めるのだが、途中からは一人になり、旅先でのパートナーと会い一緒に行動するということが多かったという。
次第に、ぼくはその話しにどういう態度で聞いたらいいのかわからなくなってきた。
彼女はなんとなしに、そのパートナーとの出来事、主にセックスについてかなり具体的に話すようになっていたのだ。
「トルコのイスタンブールで会った男性だったんだけど、ものすごくやさしくて、頼りになりそうだからパートナーに選んだのね。 ホテルでセックスもしたわよ。 行為の後は全身やさしくマッサージまでしてくれた。 そうしたらね、その時はほんとまいったな。 次の日目覚めたら、ないのよ。 リュックに入れた貴重品もろとも。 ・・まあ、パスポートとトラベルチェックはフロントに預けておいたからよかったけどね」
当時のぼくには刺激が強すぎる話しが、空けられるカクテルの量に比例して続いていた。
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