- 名前
- ハレイワビーチ
- 性別
- ♂
- 年齢
- 53歳
- 住所
- 静岡
- 自己紹介
- 裏ログはなんとなしに書き始めた私小説が大半を占めますが、途中から自分のために書き続け...
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ダヴィデのペニス・・10
2011年11月18日 21:07
彼女は身体のどこからか一枚の写真を取り出してぼくに見せた
そこにはナンシーと髪の長い日本の女性がひとりの男性をはさんで写っていた。 背景はミシシッピ川だろうか、3人とも髪をたなびかせて微笑んでいる
涙を見せるような女性には思えなかったぼくは嗚咽している彼女をそこに見出して狼狽していた
彼女から目を背けて空になったグラスを傾けて酒を飲むふりをした
店のなかでは陽気に酒を楽しむ雰囲気がざわめいていた 髭の黒人バーテンはカウンターの端の客とぼそぼそとなにやら話している
「ごめんなさい ちょっと懐かしくなっただけ
彼女は居心地悪そうに顔を無理に上げ、何処か痛々しい感じがする微笑みを繕おうとした
何処からか流れてきたトランペットの音はいつの間にか止んで、やさしいだみ声とトランペットが入れ替わりする賑やかな曲がジュークボックスから静かに聴こえてきた ルイアームストロングだった
彼女は他のことに考えを振り向けるようにぼくに言う
「日本のこと話して キョートのGolden Palace とか Silver Palace
“NOU” Drama わたしとても興味あるの
はじめはそれが何か分からなかったが、やがて金閣寺や銀閣寺を指すのだとわかった
ぼくはひどく悪酔いしてきたようでとても話す気分ではなかったが、とにかく知っていることを話してあげれば彼女の涙が止まるような気がしたのだ
金閣は鹿苑寺といい、足利義満という世の栄華を極めた将軍の権力誇示の象徴であったこと、そこに住む住職の放火によって一度焼失したこと 銀閣は慈照寺といい、その後の戦乱により世を儚んだ時の将軍義政がささやかな趣味のために建てた寺で 名前の様に銀で造られた建物ではなく寂しい建物であること そんなことをどう訳していいか逡巡しながら思いつくままに話した
彼女はじっとぼくを眺めて聞いていた
次第に苦しそうな表情を見取り 大丈夫? わたしの部屋が近くにあるからそこで休もう と言った
その瞬間、彼女と寝ているところを想像した 誰でもいいからぬくもりが欲しかったのだ
「ドミトリーの門限があるから今日は帰るよ 明日の演奏は何時から?
彼女はどうして、という表情を一瞬見せたがすぐにもとの表情をつくり
4時からよ、このバーで待ち合わせましょう と答えた
「今日はごめんなさいね はじめて会ったのにこんな雰囲気にしちゃって
「気にしないで 楽しかったですよ 実は今日は旅のなかで一番楽しい一日だったんです
彼女は本当?とちょっと恥かしそうでいて嬉しそうにわらった
彼女の微笑みを崩したくなくてぼくも微笑み返した
バーを出ると通りでは白人の男が派手な黒人の女を連れて行過ぎてゆく
じゃあ、また明日 と彼女と握手をして別れた
バーボンストリートは夜も盛りを過ぎ、ぼくと同じように泥酔した輩が家路を急ぐ
通りの端で黒人がひとりアルトサックスを吹いている
バーボンストリートを繁華街から遠ざかるように郊外に向けてひたすら歩くと大通りのエスプラネード・アベニューへ出る
夜間営業のガソリンスタンドで酔い覚ましのミネラルウォーターを買いドミトリーのシェアルームの2段ベッドへ転がり込んだ ぼくに負けず酒の匂いに満ちているベッドの 上段では荒々しい寝息が聞こえ、寝込む間もなく上のベッドから酒臭い汚物が降ってきた 悪態をついて文句を言ったが酔いつぶれた若者に聞く耳はなかった
翌朝、早々にドミトリーをチェックアウトし荷物を預け、昼のニューオーリンズを歩いた
ジャクソン・スクエアに向けて石畳の通りをピアノを運んでいる二人の黒人の後をついて行くと広場では華やかなバンド演奏が今にも始まろうとしている また通りのオープンカフェでは既に3人の黒人が流れるようなバップ・ジャズを「ただチップのため」と懸命に奏でている そんな街中にだらだらと腰掛けて一日中でも付き合っていたい気がした
昨夜の彼女のようなこころが似合うこの街に親しみを感じていた
ぼくは夕方のバスでニューオーリンズを出発した
ミシシッピ川を車窓に眺めながら、街を出るバスのなかで約束の演奏に行かなかった自分とそして彼女の事を思い返していた
このウラログへのコメント
これは きっとハレイワビーチさんの 自伝的ストーリー・・・
そんなふうにイメージが沸いてきます
何故かここで書くことにした私小説なんですけど、余り裏っぽくならなくてスイマセン・・
挿絵は当時から好きな作品を選んでますので、これでお許しを(苦笑
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