- 名前
- ハレイワビーチ
- 性別
- ♂
- 年齢
- 53歳
- 住所
- 静岡
- 自己紹介
- 裏ログはなんとなしに書き始めた私小説が大半を占めますが、途中から自分のために書き続け...
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ダヴィデのペニス・・11
2012年01月22日 19:22
ふと目覚めて目に入った部屋の天井によって、日常が妙な非現実感と共に脳裏にしみこんで来た
いつもの見慣れた染みひとつない白いビニルクロス
毎朝目覚めるたびに感じていた「異国の」天井 それが元に戻った、それだけのことなのだが
抜けるような青空が見せる初夏は終わっていたが、惰性で夏はまだ続いていた
大学の授業は既に始まっており、ぼくはどこか意気揚々とした気分でアトリエに行った
旅はまるで吹きぬける風のような体験であったが、自分のなかの何かが変わったような、変われるような気持がしたのだ
ポーズが丁度終わった休憩にアトリエの重い鉄の扉を開け、中を覗き込んだ
モデルは泉さんではなかったが、いつもの顔ぶれの生徒たちが取り囲み、思い思いにデッサンやら彫塑に励んでいた
その中に旅行前に見かけた絵画科の女の子を見つけた 牧原雪だ
彼女は扉から覗いたぼくをいつになく素早く見つけ、手を振り大きな声で言った
「おおい、お久だねぇ、元気かい? おかげさまでジャコメッティはじっくり読んだよ あれなかなかいいよね、気に入っちゃった
大きな声に皆が一瞬注目したが、ぼくが彼女に近づいてゆくとまたさざ波のような休憩中の雰囲気に戻った
彼女はわざとなのか、くせなのかいつも過剰な笑顔でフランクな男っぽい話し方をする
ぼくは彼女があの本を読みたがっているのが何故かあの時分かったのだ でもそのことは言わないで置いた
「それはどうも。 君のお勧めもあったらおしえてよ
ぼくは彼女に聞こうかためらったが、つい欲求に勝てなかった
「ところでさ、最近泉さんは来てないの?
「そうだねぇ、君を見なくなって以来彼女も見てない気がするね あ、私も1ヶ月くらい学校来てなかったからまあ分かんないけどさ そういえば神山君メキシコ行ったんだって? 私は中国行ったんだよー
中国はぼくにとってまるで興味のない国のひとつだった だけどそんな国に行くエネルギーを持つ彼女に興味を持った
「まさか一人で行ったのかい?
当時の中国は経済開放が始まったとはいえ、テレビで見た天安門事件の暗い記憶がぼくのなかには新しかった
「絵画科の友人と行ったんだよ そうだ、メキシコの話しも聞きたいから今晩家においでよ 旅の写真も焼けたから彼女とちょうど旅の話しするつもりなんだよ
ぼくは旅の話しを真っ先に泉さんに伝えたかったのだが、彼女の消息が分からない落胆と彼女の不思議なエネルギーに引き擦られるように了解した
ぼくらの話しをまわりで聞くともなしに耳をそばだてていた彫刻科の生徒の合間を縫ってアトリエを後にした
彼女は高尾山の麓、鬱蒼と茂る木々をまるで背負うように佇む古びた平屋の一軒屋に住んでいた
隣家までは30メートルほど離れていて、その間には大きな桜の大木がある
一軒屋は夕暮れに押しつぶされそうに見えたが、窓からの柔らかい光が暖かな家庭を思わせた
ぼくはバイクを停め、そこから裏側に当たる玄関からではなく賑やかな声が聞こえる庭に面した掃き出し窓に近づいた
彼女はようこそと言わんばかりに勢い良く窓を開けた 中ではもう彼女の友人と話しが弾んでいるようだった
中に入ると、6枚の畳が敷かれた真壁の部屋は白熱灯が手作りの曲面ガラスの器に包まれ、不思議な光の反射を醸している
どこかの古物屋にあるような茶箪笥の上にCDやら綺麗な貝殻やら、石、本、ニコンの一眼レフカメラなどが雑然と置かれ、壁にはロートレックのポスターが貼られている そして畳や壁にはあちこちに油絵の具が付いていた
「紹介するよー こちら同じ絵画科のりょうこ こちら神山君
彼女はぼくをまるで値定めするような眼でじっと見た まるで警戒する猫のような印象だった
「わたしこの人知ってる いつも手形が張り付いてるジーンズ着てた人
ぼくには高校生の時以来の腐れ縁の友人がおり、そいつは服飾の勉強をしていて彼が作った不思議な試作の服をよく着ていた 大きな手形がデザインされたジーンズは唯一ぼくのお気に入りとなり、よく履いていたのだ
「神山君お酒飲めるよねー これおいしいよ
雪は日本酒の一升瓶から湯呑みに注ぎ、手渡してくれた
中国では仕切りの無い公衆便所で用を足すのに苦労した話しや ミャンマー国境の雲南省まで二人で列車に揺られその座席の堅さに痔になった話を二人が楽しそうに話すのを聞いたり 見事な阿片畑で撮った写真を見せてもらったりするうち、ぼくのメキシコの話しも少しではあったが話すようになった
飲み始めた山廃の一升瓶が半分くらいになる頃、雪がトイレに立った
りょうこはぼくと二人になると彼女は山廃をぼくの湯飲みに注ぎながら言った
「雪、きっとあなたのこと好きよ あなた好きな人いるの?
ぼくは不意打ちをくらったように動揺し、伺うような眼差しを向けるりょうこの顔を見つめた
このウラログへのコメント
恋さんへ・・読んでくれるのは素直にうれしいです 書きたいと思うことだけ書いてるのでプロットはつまらなくなると思ってます 一応私小説です(苦笑
若さって永遠じゃないんだけど、永遠に続いていくような→
そんな空気に満ちている小説ですよネ
ゆきえさん・・・うれしいコメントです ぼくもそんなこと思いながら書いてます
記憶ってちょっと涙で濡れてるもんなんだなぁ、とかこの歳になると思ったりして(苦笑
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