- 名前
- ハレイワビーチ
- 性別
- ♂
- 年齢
- 53歳
- 住所
- 静岡
- 自己紹介
- 裏ログはなんとなしに書き始めた私小説が大半を占めますが、途中から自分のために書き続け...
JavaScriptを有効にすると、デジカフェをより快適にご利用できます。
ブラウザの設定でJavaScriptを有効にしてからご利用ください。
ダヴィデのペニス・・7
2011年10月19日 23:07
メキシコへの旅はほとんどの若い旅行者がするようにロサンジェルスからグレイハウンド・バスに乗って国境の町エルパソを目指した。
メキシコに行くぼくの大義名分は、当時好きだったメキシコの建築家ルイスバラガンの住宅を見に行くことだった。
大学に入って遅まきながら将来のことを真剣に考え始めたぼくは、好きだったミケランジェロやジャコメッティのような作家活動を目指すことの無謀さを痛感し、徐々に住宅などの建築を造る職人に興味を覚えていった。 住宅ならいつの時代も需要があるし、なにより絵画や彫刻のような大海原に航海に出るような作業と違って、森を探検するような感じがぼくには合ってるような気がしていた。
確かにバラガンの建築を現地でみることはぼくにとって魅力的で、旅の目的を聞かれたら皆にそう答えていたのだがまあ、正直なところは場所は何処でも良かった気がする。 とにかく日本以外の国に行ってみたかった、というのが正しかった。
そのためには賄いの出る夜間の小料理屋の皿洗いや工事現場の警備で旅の費用を捻出するのは全く苦にはならなかった。
当時ぼくのまわりは、バブル経済に踊った日々が終焉して、いろいろなものが腐敗して漂っていたようにいつも感じていた。
ぼくのこころにはそれらに何か反発したいような、しかし何に反発していいのかわからないフラストレーションがあった気がする。
だから、ツアー客の日本人は決して近寄らないロスのダウンタウンのバスターミナルをホームレスの黒人に煙草や食事をたかられながら歩くことも、そこで一晩明かし夜明けのバスを待つことも平気、というかむしろそんな世界に新鮮な感動さえおぼえていた。
エルパソに向かうバスの長い時間の中で、夜更けに目が覚めるとテキサスの砂漠に地平線がうっすらと浮かび上がる。
所々に浮かぶサボテンの陰影の間に赤ん坊のほっぺたのようなピンク色の太陽が昇り始めていた。 ぼくはその時も旅行に出て何故か忘れたことがなかった彼女のことを思い出していた。
旅のなかでは、おそらくぼくの想像を越えた世界に感動するのだろう、と思っていたのだが、彼女に旅の話しを聞いて想像力を逞しくしていたぼくにはそんなに驚きの世界ではなかった。
機械的に予定していたメキシコシティやグアダラハラのバラガンの建築や彼女におしえてもらったフリーダミュージアム、ウルトラバロックの教会を見てまわった。
途中、日本の旅行者と何度か出くわし行動を共にしたが、ぼくとしてはメキシコの悪名高き警官に賄賂を要求されたり、日本人好きを装った自称大学生に夕食をたかられたことの方を何故か楽しんでいた。
そんなメキシコシティの喧騒を逃れるようにグアテマラの国境近くの町サンクリストバル・デ・ラスカサスに着いた。
この町はこじんまりとしたコロニアル風の教会や家々がどこかおとぎ話の中のような風景や雰囲気を持っていて、旅の疲れを鎮めるのには丁度よかった。
しかし、そんな雰囲気に気が抜けたのかそこでひどい風邪を引いてしまった。 異国で体調を崩すことの惨めさはその状況に陥らないとわからない。
熱っぽくてだるい身体を引き摺って、ホテルのフロントの女性におしえてもらったドラッグストアで抗生物質を手に入れ、ミネラルウォーターで流し込み、ホテルで寝込んだ。
このホテルも彼女がくれたリストにあった宿だった。安宿ながら、調度品もしっかりしていて清潔なシーツは不安なこころを落ち着かせてくれた。
彼女の夢を見た。 彼女はメキシコの男と一緒だった。
浅黒いメスティソの男は彼女と窓辺でキスをしていた。 ぼくは外からその窓枠の二人を眺めている。
それが夜中なのか夜更けなのか分からなかったが、何度か目が覚めては嘔吐し、眠ることを繰り返した。
このウラログへのコメント
コメントを書く