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即興小説・9月1日、アイスクリーム、彼女は転校した 1

2024年09月04日 16:53

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 夏休みが終わり、久々に学校に行くために乗りたくも無い電車に乗る。取り立てて、たいした思い出もない夏休みだったが、これからまた学校が始まると思うと憂鬱になる。友人の彰彦は、休みがずっと続くと不安になるから学校早く始まんねーかなと言っていたが、僕にはまったく理解できない理由であった。休みが続くなら、それに越したことはない。勉強は面倒臭いし、体育の時間なんて地獄以外のなにものでもなかった。ウチの学校は基本、体育は球技しかやらないから、体育のある日はサービスデーみたいなもんだと彰彦は言っていた。バスケバレーサッカーも観る専門の自分は、顔面や腹や股間ボールがぶつかりまくるのをひたすら堪える時間である。ドッジボールでもないのに、なぜに自分はこんなにボールが激突するかが疑問であったが、ようするに運動神経が致命的に無いのである。あるいはボールに愛されているのかもしれない。僕が体育不要論を力説していたとき、彰彦は、でも夏場には水泳がある。女子の水着姿が見れるし、最高じゃないかよ!と反論したが、そもそも授業はプールを左右で二つに割り、男女別に行われるから、視力が低い僕は女子の水着姿などを見ようと思ってもろくに見えやしないし、なんとか見てやろうと凝視でもしていたら完全に変態扱いである。彰彦は運動神経容姿も良いから、ちょっとくらい女子を眺めていても、別になんとも思われないどころか、むしろ喜ばれているんじゃないか?ただしイケメンに限るを地でいくのが彰彦というやつなのだ。僕なんか、クロールで泳いでいたら、なぜかいつのまにか女子のレーンにまで入り込んでいて、息苦しくなり、これは溺れるかもと近くにある物体を鷲掴みにしたら、それが学年一の巨体を誇る女子生徒白鳥華子さん(見た目はボストロールに似ている)の臀部で、僕は溺れかけていたのにもかかわらず白鳥さんにボコボコにされ、危うく溺死しかけるところだった。後に彰彦から聞いた話によると、気絶していた僕は、たっぷり吸い込んだ水により腹がマンボウのように膨れ上がり、腹を押し込むと水芸のように勢いよく口からピューと水を吐き出したらしい。申し訳ないけど、あれには爆笑しちまったよ、と悪びれもせずに彰彦は語るのだった。そんな対照的な僕と彰彦の間で一致したのがマラソンの存在意義である。あんなもんは24時間テレビの募金のために、芸人が走っていればいいんだよ、わざわざ苦しむ必要なんてなくね?体育大好きマンの彰彦が、珍しく存在を全否定したんで、でもあれってランナーズハイとかいう状況になると超気持ち良くなるんじゃなかったけ?と、僕は思わず、マラソンを擁護してしまった。ばーか、おれはそんなドMの領域にまでいける物好きじゃねーんだよ、と一蹴された。続けて、毎回ボールに激突していくおまえなら、あるいはその領域にまでいけんじゃねーの?と、悪戯っぽく笑うのだった。それは男の僕もどきっとしてしまうくらい、不思議と人を惹きつける笑顔だった。こんなんだから、彼が嫌いだというマラソンの授業でも、ゴール地点に辿り着いた彰彦の前には女子生徒たちが群がって彼をねぎらうのだった。僕がゴールしても、むさ苦しい体育教師が、諦めないでよくがんばった!と暑苦しい声を掛けてくれるだけである。こんなふたりが、なぜ仲が良いのかわからなかったが、とにかく僕と彰彦は親友とも言える間柄だったのだ。


2

 7時16分発の電車に乗り、彰彦と落ち合う。それが僕らのルーティンだったのだが、どういうわけか彰彦はいなかった。不思議に思っていると、スマホの通知音が鳴り、満員電車のなか、どうにか身体をひねってポケットからスマホを取り出して画面を見ると、「わりい、今日は1便遅れちまったわ、ファミマの前で待」というLINEのプッシュ通知が表示されていた。プッシュ通知なんで文章は途中で切れているが、意味はわかる。スマホを再びポケットに仕舞おうとすると、隣の香水臭いOLに痴漢と間違われる危険性があったので、そのままスマホを握りしめて、下車駅まで身体を固めて待つのであった。
 ファミマの前で、アイスを2本持ち待っていたら、彰彦がやって来た。彼にしては、めずらしく浮かない顔をしていた。彼も僕の夏休み明けの憂鬱な気分が理解できるようになったのだろうか。

「わりい、待たせたな」
「うん、ちょっと心配したよ。アイスおごるから、食べながら行こうよ」
 このコンビニで、朝食代わりの菓子パンやら唐揚げなどを買い、だべりながら登校するのがいつもの日常だった。
「あ、今日ちょっと食欲ねーんだ、おまえ2つ食っていいよ」
 え、ソフトクリーム2つを一気に、、、
 9月になったとはいえ、太陽の日差しも激しいから、溶けるのも早いし、胃ももたれそうだし、なかなかきついんですけど。
「自分で食べるのしんどいなら、誰かにやればいいだろ」
 そんなコミュ力があったら、彰彦に言われる前に実行してるよ。
「なあ、おまえB組の神田夏休みの間に転校したって知ってた?」
 一個めのソフトクリームのコーン部分に噛み付いた瞬間、それまで黙っていた彰彦が唐突に口を開いた。神田和佳菜、僕と彰彦と同じ中学の出身で、去年は同じクラスだったが、2年になってからは別々になったのだった。そもそも女子生徒とまともに話せない僕だから、神田ともろくに話すらした事がない。だから、いきなり転校したと聞いても、ふーん、そうなんだね、とつまらないリアクションを彰彦に返すしかなかったのだ。それからも、彰彦は意気消沈したままだったので、僕は無事に二個のアイスクリームをたいらげることに成功したのだった。
 教室内に入る。髪の色や肌の色が夏休み前と変わっていた生徒もちらほらいたが、神田が転校したという話題は、このクラスではさほどバズる話題でもなかったのか、一部の女子からその名前が話題に上がるくらいであった。

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