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果林

2014年06月25日 00:33

果林

安部公房は1993年、68歳で亡くなっています。 倒れたのが山口果林の家だったこともあり、マスコミに騒ぎ立てられその関係が発覚しました。
しかし、彼女はもちろん、公房の遺族(妻はその半年後に死亡)もそのことに触れないままでした。
今回の本が一種の暴露本であっても、もはやこれは文学的な資料としての側面が強くなっています。 いわば時効後の告白をしたようなものでしょうか。
かつての朝ドラの人気女優ももう66歳になりました。彼女の人生はスターであるだけに派手で脚光も浴び、同時に苦しみも味わっています。
ただ、妻になれず、母にもなれなかった部分は残ります。
いや、初めて知ったのですが、付き合いのごく初期に一度安部公房子ども妊娠していて、堕ろしているのです。 当然のように女優を選んでいます。
そんな彼女だから、この本を出す決意をしたのでしょう。
読後感は複雑です。同情もしないし、非難もできない。幸せだったとは思うのですが、どうしても安部公房なしでの女優キャリアはなかったのではないかと感じるのです。
この本の中で、けっこう面白い発見がありました。 これは彼女だけしか知らなかったのではいかと思います。
たとえば、果林が公房に、「来世紀に残る日本人作家3人は誰だと思う?」と尋ねたとき、「宮沢賢治太宰治、それに…」と3人目があがらなかったそうです。
3人目は安部公房と言いたかったはずと果林は書いていますが、二人だけの私生活の中での言葉ですのでこれは本音なのではないかと思います。
大江健三郎三島由紀夫じゃないんだ、太宰か…と私は驚きましたが、安部公房はこの二人を高く評価していたはずですが、やはり同時代のライバルとしてみていたのでしょう。
しかも、安部公房ノーベル賞候補だった。 あの歳で死ななければ、大江より先に受賞していたと思います。
ただ、三島ノーベル賞作家であったと思いますが。
他にも、めったに他の作家を褒めない公房が、丸山健二の本に感動し、出版社を通じて彼の連絡先を聞き、電話をしたというのです。
人付き合いの悪い安部公房としては珍しいことでしたが、丸山健二はあのとおり偏屈王ですので、「あんた誰?」みたいな対応をしたらしいのです。
それで安部公房は憤慨して…と、これまた意外なエピソードです。 最後に本のつくりについてです。
これは書き手のプロではない彼女の責任ではないと思いますが、文章や構成がけっこう杜撰なのです。
編集者が入れるべき手を入れていない、と感じます。
とくに彼女自身の半生を描いている章は、ぶつ切れでまるで文章としての体をなしていませんし、安部公房との生活や闘病のときも時制がメチャクチャでわかりにくいのです。しかも、主語が曖昧な部分もあり、あれ?と思うことも何度かあります。
安部公房には優秀な編集者がついていたはずなのに、山口果林を担当した編集者はいったい何をしていたのでしょうか?
もっと整理して推敲すれば、話ももっと劇的になるし読みやすくなるはずです。
エッセイを書いていたという果林が、絶対手を入れるなと指示していたのなら別ですが、そうとも思えません。
やっつけ仕事なのかどうかわかりませんが、安部公房が生きていたら、“もっときちんとつくれよ”と怒ったのではないかと思うのですが…。
ただ、写真や装幀は面白いですので、興味ある人は立ち読みして、カバーをめくって本全体のデザインを観賞することをお奨めします。

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