キスより、カンタン

「うわきごころとか、持ったこと、ないんですか？」

うわあ。
だめだこりゃ。
そんなことば、使うのかよ？
つまんねえな、そういうの。
なんて、思いながらも、
話を続けようと、

「ややこしいことが、これまでなかったとは、云わないし」

なんて、いいわけがましく、前置きをして
いままで誰にも話したことのない、大切な時間の話をした。
ものすごく慎重に、きっと相手がイライラするほど、迂遠な言い回しを選びながら。

でも、そのまえに、
「ややこしいこと」、
という言葉、を
スルーしてるけど、
それってなんだと、思っているんだろう？

それが、わかっているのだか、いないのだか？
ボクにはさっぱり、キミの言葉の裏側に
あるんだかないんだかさえ、定かではない、
本当の気持ちとかが、わからないままだったけれど。

例えばボクが、びっくりさせようとかいたずらしてやろう、とか、
他愛も無い悪意をもって、近付くならば、
10歳を過ぎたこのごろは、
ひょっとして死んぢゃったんぢゃないか？
なんて、心配になってしまうほど、
ぐっすりと寝入っている時間が長いうちのおぢいちゃんは
間違いなく、その気配を察し
飛び起きるに違いない。

けれどいま、ボクの背後に、
ボクを驚かせようと、
足音をしのばせ近付いているつもりのひとは、
その気配を消すことができない、ばかりではなくて、
消しているはずの気配以上に、
用心の無さを、あまりにもあからさまに
漂わせてしまっていることに
どれだけ、自覚的なんだろう？

例えば、いま、
ボクがそのまま
知らん振りをして
驚かされるふりをしながら、
振り向きさま
キミを抱きしめて
この往来の、真ん中
公衆の面前で、
くちびるを奪ったり
あるいは、そのまま、
あっという間に
キミ自身に
触れてみたり、なんて・・・
ひょっとしてそんなこととは無縁な人間だと
思い込まれているんだろうか？

その時キミはいったい、
どんな顔をするんだろう？
ボクはそんなのカンタン
と、いう程度に、
性的な人間
ではあるのです。
まだ。


今日もいつもどおり、
尋ねもしないのに、
自律神経失調症だったとかいう
元カレの話とか、交えつつ
いつも以上に、饒舌に、なってはいたけれど、

会うたびに、どんどん、
気持ちが楽に、
言い方を変えるなら、
ぞんざいに、距離をわきまえることもなく、
お互いが、とても自然に、
ということは、意図しないままに、ということなのだけれど、
近付きつつあるとは思うけど、

それは多分、
ひどくセックスからは離れて
孫とおぢいちゃんとか、
そういう関係に、見えなくも無いし、
そのこと自体、
ボクのせいではないし、
もちろん、キミのせいでもまったくないと、思います。

・・・なんだか、すごく眠いので
とりあえず、こんだけ。
また明日。