ソバニイル

帰宅途中の満員電車。

いつもはいやでいやで仕方がないのに、この日は別だった。
初めて二人での帰り道。しかも相手は気になっていたというかもう恋焦がれている相手といっても過言ではないＴ君。

「毎日、こんなにぎゅうぎゅうの電車に乗ってんの？」
「うん。行きはそんなんでもないけど、帰りはいつもこんなかんじ。」
「毎日、がんばってんだな。偉い偉い。ちゃんと俺につかまっとけよ。はぐれると嫌だしな。」
そう言ってＴ君は私の体を引っ張ってぴったりと密着した。

こんな風にしてもらうの久しぶりだな・・・。
あったかいなぁ。


彼のコートに顔をうずめるといつもの匂いがする。Ｔ君も頭を軽くなでてくれた。

電車に乗っている間、何度も何度もＴ君が私のそばにいることを実感した。

とても幸せだった。
あの時、携帯を拾って、話して、届けて本当に良かった。

あっという間に電車は私のすむ街へ到着した。

「さてさて、あやのちゃん。この辺に今開いてて洋服買えるとこない？」
「あるよ～。何で？」
改札を出たところで少し話す。
「だって、二日も同じ下着きて靴下履いたら気持ち悪いでしょうが。替えを買いに行くから教えて。ほろ酔いのところ悪いけど♪」
そういうＴ君もほろ酔い。頬が少し赤かった。

ほろ酔い同士で仲良く街にお買い物に出かけることにした。