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「めぐりあい」第8話【完】 初冬の京都・二人の生きる道

2024年10月08日 06:20

「めぐりあい」第8話【完】 初冬の京都・二人の生きる道

地下鉄東山駅を降りて、三人で青蓮院へと向かう

院に着くと、我々を迎える門前の横にそびえる楠の大木。落葉していない木は晩秋とは思えない落ち着きと重厚さを感じさせる


「大っきな木やね」悟が驚いて声を上げる
「そうや。樹齢800年程で、親鸞聖人という偉いお坊さんが植えたと言われとるんよ」
悟はふ~んと納得したような顔になる

受付から殿舎内に入る。江戸時代に仮御所にもなった格式の高いお寺は、落ち着きがある
宸殿から右近の橘、左近の桜を前にして庭園の奥にある楠の巨木をしばし眺める



あぁ、あの時も二人並んで眺めっとたなぁ。私は、はるの横顔をそっと覗き見る。ちょっと鬢に白髪が見える。大学卒業を控えた就職活動を理由に段々と疎遠になっていった二人。はるの卒業前に破局を迎え、それ以来は一度も会ってなかったんや


はるは、あれからどんな人生を送ったんかな

私も色んな人に男性に出逢い、仕事も変え、旦那結婚して悟を授かった
はるも結婚してお子さんも二人おるらしい

奥さんとは上手くいっとらんとブログでは愚痴っとったけど、どんな生活してはるんやろな
 

一瞬、はると目が合った。ちょっとお互いの気持ちが分かった気もした

「あれからどうしてたの?」
「色々あったんはお互い様や」
「やり直せんかな」
「時は戻せんわ」
「戻せないかな。でも新しく始めることも出来るんじゃないかな?」


私の左にははる。私の右には悟。悟はお寺の厳粛な空気は、はしゃぐ場所やないと思っとるんか、おかんとおじさんの微妙な空気を感じ取るんか、思ったより大人しゅうしとる

暫く楠を眺めた後、靴を履いて紅葉木々や池がある庭園を見てから青蓮院を後にする。それから知恩院の門前を通って丸山公園の方から八坂神社にお参りする

そのあとは高台寺のねねの道から二年坂から産寧坂を通り清水寺

「わぁ、この辺りはお店屋さんも多いし、お客さんも多いんやね」
「そやろ。そしてここが一番人気の清水寺や。清水の舞台から飛び降りるって聞いたことあるやろ」
「あるような気もするなぁ。」   


清水の舞台から京都の街を眺めるはると悟の後姿を私は見ていた
私ははると逢いたいと切に願ったけど、その思いは遂げられたんやろか。この再会で何か得られるものがあるんやろか。二人の関係に何かが起こるんやろか・・・



「めぐりあい」第十話 二人の生きる道

京都大阪への週末の旅行の後、私ははるとのことを考えていた


京都で会った時は悟がおったんで、メールで書いていた「俺ではダメかな?」の意味を確かめることは出来んかった

でも週末に会った後のメールで、私と再び会えて嬉しかったことと、奥さんと不仲で離婚しようと悩んでいると、私に逢ってその思いは強くなったと書いてあった


そんなこと書かれてもなぁ、うちも困るやん

私は離婚の手続きを進めとるけど、はるはほんまに離婚するん?
離婚したとして、一度別れたうちらが、今度は上手くいくという保証はあるんやろか?


ハルはやっぱりはるやった
だけど、一度、大学卒業の時に結果的に私を振った狡い男の本質は、変わっとらんのかもしれんとも思った

でも、寂しいのも、はるにもう一度逢えて嬉しかったんは事実や

そして、はると逢って私の女の部分が疼いたんも事実やった



私は正直言って悩んどる。そして私にとって今大事なんは息子の悟との生活やから、彼の考えも大事にしたいと思っとる

天気の良い週末、瀬戸大橋や橋が掛かっとる島並みの絶景が見られる鷲羽山展望台に息子と出掛けた
息子旦那とのことは薄々感じとるようやった

海と島と橋が織りなす雄大な景色が楽しめる展望台で、息子に私は話した


「母ちゃんな、お父さんと離婚することになりそうなんよ。」
「悟は、お父ちゃん大阪で暮らしたいか? それともこのままお母ちゃんと暮らしたいか?」



子供には酷な質問や。悟は私の目を逸らして、少し俯きながら答え
「母ちゃんと岡山で暮らす・・」
「この間、京都で会うた男の人と一緒に暮らすん?」

そうか、そういう風にも思っとったんやね。私は屈んで悟を抱きしめた

「ううん。あの人と暮らす訳やないよ。悟と私はいつまでも一緒やよ!」

悟もその小さな身体で私を抱き返してくれる
「うん。俺な、男やから母ちゃんのことしっかり守ってあげるからな」

悟は泣いていた。私も泣いていた




はるのことは直ぐにどうなる訳やない。先ずは悟と私の岡山での生活をしっかりと固めよう
瀬戸の穏やかな海からの潮風と青い空に包まれ、私はそう強く思った

(fin)

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