- 名前
- まさやん777
- 性別
- ♂
- 年齢
- 28歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 東京のはずれに住んでます。夜勤してます。
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小説 CHIKUWA IS DEAD !? 第3回
2024年06月23日 11:02
5 僕はいない
クロッシェを目深に被り、メガネとマスクをつけ、気分は大正時代のモダンガール。通称モガ!
わたしはバカと呼ばれてますけどね。
ハイカラさんが通るならぬメンヘラさんが通る!
ーーなわけですが、そんなメンヘラさんはただいま某デパート内の本屋で目的のブツを物色中。
太宰治の『人間失格』だ。
『人間失格』といえば、太宰で最も有名な作品である。愛人・山崎富栄との入水自殺(本当に自殺だったのかはわからんけど。遺作である『グッドバイ』に自分をネタにされたことでブチ切れ、富栄が強引に玉川上水に引き摺り込んだのではないかとの説もある)前に書かれた最後の長編。太宰自身をモデルにした大庭葉蔵の半生を描いた作品で、これと同名の主人公が太宰の第一作品集『晩年』の中の『道化の華』にも登場する。
ーー道化! まさにバカを演じて世間を生きるわたしにピッタリの言葉じゃないですか。『人間失格』は、この『道化の華』のセルフリメイク作品みたいなもので、これを遺書代わりに抱えてわたしは死ぬ。残された者たちは、わたしが大事そうに抱えた『人間失格』を見て、「うむ、これはダイイングメッセージなんじゃないか!?」と考えて各々勝手に考察するだろう。
「ミタネ屋」や「ワイ、ドウナットンノヤショー」などでわたしの自殺の真相をめぐって、喧喧諤諤[けんけんがくがく]の論争に発展する!超見てえけど、自分じゃ見れないのがつらい。
6 FRUSTRATION
「さてと、目的のブツは買ったし、問題はどこで決行するかだが、、、」
死ぬ前に最後の晩餐として、フードコートに行ってなんか食べるかと思った矢先、なにかが凄い勢いで近付いてくる悪寒を感じ、わたしが振り向いた瞬間ーー
ドォン!!
いきなりの衝撃に、わたしはその場にブっ倒れてしまった。
なんとか起き上がり、周囲を見ると小学校高学年くらいの男の子が倒れていて、傍らにはわたしがさっき買った本。
「あっ、あっ、あっ、ごめんなさい!!ボク、急いでてっ!」
どうやらこいつが突っ走ってきたのを、わたしが考え事をしていたからか避けきれずぶつかってしまったらしい。わたしはそそくさと、紙袋に入った本を拾い「デパートの中じゃ走っちゃダメだよ。ケガはしてない?」と少年に優しく声を掛けた。内心はムカついてるが、この程度でキレていたらアイドルなんか務まらない。
「はい!だいじょうぶです!ボ、ボクいきます!!」
乗り慣れない自転車みたいなフラフラとした挙動で、少年はどこかに向かって走っていった。
「デパートの中は走るなというのに、全然だいじょうぶじゃないやないか、、、」
まあ、これから長い人生が待っている子供のことを気にしてもしょうがない。わたしはわたしで、最後の晩餐といこうじゃないか。
お笑い枠とはいえ、そこはアイドル、体型維持のため好きなものもろくに食べれなかったし、最後くらいは好きなものを盛大に食べようではないか。
で、フードコート内にて、きす屋のチーズ牛丼メガ盛りを注文したわたし。
「うーん、このバカ丸出しのこってり感!最高だな!」
ーーと、孤独のグルメよろしく食レポをかましていたのだったが、さて、どこで死のうか、場所をいいかげんに決めないとと、テーブルに置いてあったスマホに手を伸ばした瞬間、
「あっ」
反対側にあった本が肘に当たり、落っこちてしまった。紙袋を止めていたセロハンテープが剥がれ、中身が飛び出してしまっている。
「あーもう、汚れちゃったらわたしの最後を飾るアイテムとしての、、、あ、、れ、、?」
紙袋から飛び出した本には、こんなタイトルが書かれていた。
『のぐそドリルークソみたいにバカなきみも頭がよくなる!ー』
「ーークソがっ!!」
7承認欲求
「のぐそドリル」
それはうんこが大好きな小学校低学年向けに作られた学習教材シリーズの名称で、製作者の目論見通り大ヒット。
「うんうん、この『のぐそドリル』を胸に大事そうに抱えて死んだ日には、ちくわちゃんは小学校低学年向けのこんなん読むくらいマジモンのバカだったんだねー!とファンのみんなも涙してくれるに違いない、、、ってちげえよ、クソがっ!!」
「あのひと、どうしたの?……ちょっとヤバくない?」
勢い余ってテーブルから立ち上がり、ひとりでブツブツ言い出したわたしを周囲のファミリー客が怪訝な目で見始める。
「なんか、クソがっ!とか聞こえたけど、この声どっかで聞いたことない?」
やべえ、せっかくちくわとバレない程度に変装してきたのに、いつもの口癖がメジャー化するのも参ったもんだな。
「親戚の子に『の グソッ ドリル買ってあげたけど、さすが売れてるだけあって、いい本だわー」
良家のお嬢さまっぽく声色を変えて、わざとらしくタイトルを強調して、この危機を乗り切る!
「あれっ、なんか梅道[青梅街道77の略称]のちくわっぽい声が聞こえたんだけど、やっぱちがうよね?だって今日は「青梅街道どこまでつづくの?」の撮影日だもんなー、いるわけないない」
こんなとこまでスケジュールを把握してるヲタがいるとは、、、
サインぐらい書いてやりたいけど、今は大事な目的を遂行するのが先決だ。突然の『のぐそドリル』の出現に呆気に取られていたけど、わたしが買ったはずの『人間失格』はどこにいったのだ。これまでの自分の行動を考える。
本屋で、『人間失格』を買う。
トイレに行く。
トイレに忘れてはーーいない。小脇に抱えてトイレを出てきたのを覚えている。
その後、なんかお腹空いたなーと思った瞬間、小学校高学年くらいの男の子が激突してきた。
「クソがっ、、、いや、これだよ、これ。このタイミングでお互いが持ってた本が入れ替わったってわけだな」
それにしても小学校の高学年にまでなって、『のぐそドリル』ではないだろうに。めちゃくちゃ流行ってるらしいから、それに釣られて買ったのかもしれないけど。
謎が解ければ、話ははやい。
あの子を探すだけだ。チー牛を食べ尽くしたわたしが、テーブルから再び立ち上がると、突然周囲がざわつきはじめたのだった。
「ねえ!これ見てよ!!今、ここの屋上で飛び降り自殺の実況中継やってるやつがいるよ!!」
「マジで!!まだ子供じゃん!」
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