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「大好き」を伝えるために 3話

2009年01月07日 19:50

何時だっけ…。覚えてないけど、前に「ありえない。三途の川なんて馬鹿馬鹿しい」って笑ったことがあった。その笑い飛ばしたものが、今、自分の目の前に実在している。私、本当に死んじゃうんだね…。この不気味な川を見て、なんだか改めて実感したよ。
「…行きましょう」
女の子が川に入って行く。私もその後に続いて、ゆっくりと川に足を沈めた。ひんやりとした感覚が、足を通じて全身に走る。水の深さは膝の下くらい。水は澄み切っていて、水中にある足がハッキリと見えた。

「転ばないように気を付けて下さいね」
女の子は振り返って私に注意した。背が小さい彼女は、膝の上まで水に浸かっている。私は彼女の警告を受け入れ、再びゆっくりと水中を進み始めた。

その時だった。

私が一歩踏み出した瞬間、水面が七色に光った。

「なに…!?」

何かが、光る水面に映し出されていく。「…何かの映像?」ぼんやり映っていたものが、どんどんハッキリと映し出されていく。

「ああ、“時映し”が始まったんですね」

「時、映し…?」

水面に映し出されたのは、生きていた頃の私の映像だった。
アナタの生きていた頃の出来事を、この川は映像にして映し出してくれるんです」

「…へえ…」

私は軽く相づちを打って、再び水面をじっと見つめた。突然、黙って映像を見ていた私の目が見開かれた。

「あ、啓司くん…!」

啓司くんと二人で土手に寝転んでる映像が映った。啓司くんは2つ年上幼なじみ男の子。私が物心ついた時には、既に隣りには彼がいた。優しくて、かっこよくて、私の大好きな人だった…。土手に寝転がって、二人で夕焼け空を眺めている映像。そうだ、そういえばこの日…。私、啓司くんに告白しようとしたんだっけ。私、ずっと告白したくて。でも、もし振られたら…。もう近くにいられなくなるかもしれない…。啓司くんが離れていっちゃうかもしれない…。そう思って、怖くて、15年間ずっと告白なんて出来なかった。でもこの日は、決意したんだよね。
気持ち伝えようと思ったんだ。
そう、確かこの日は…。啓司くんの誕生日。そして…。私が事故にあった日。

私は息を呑んで水面を見つめた。水のスクリーンに映し出される、あの日の夕暮れ。背伸びをする啓司くんの後ろ姿が眩しい。映像の中の私は、啓司くんの隣りで幸せそうに笑っている。これからの最悪な結末が訪れるとも知らずに。

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