どろぼう、したい・・・

まだ陽の暮れぬうち、ボクはキミの職場に
盗人のように忍び込む

派遣の誰かがどこかに転属とか、
オフィスの一角で儀礼のために
人が幾重かの、輪に群れていて
一番外側から、少し離れた場所に
また、５，６人の、塊があって、

ボクは並び立つふりをして、
すっとキミの傍らに寄り添い
誰にも聞き取られない音量で
どこか秘密めいた会話を交わす

キャビネットの上の、黒いトートバッグに
入れてあるから、本

一瞬驚いたようにボクを見つめたキミは
今朝からの会話の流れをすぐに思い出し、
すべてを悟り、

期限は？

一ヶ月・・・
でも、１７分ぐらいで読めると思うよ

え？

だって、こんな短編だよ？

ボクは香をくべるみたいに、掌を胸前に
親指と人差し指をくっつけてかざす

すると、場の静寂を崩さないよう
くすくすくすという音が
口元を抑えた指の間から漏れてくる

透るほど、白く、つよい、指先に
ボクは食欲を
押さえつけなければならない

キミはまだ、遠く、重い鎧の裡だけれど
すこしづつ、その隙間から
何かが見え隠れするようになり、
ボクの何かが満たされていく

さて、これからが
泥棒の始まり

盗みたいのは、
もちろん・・・

キミのこころだけ、なんだけれど。