- 名前
- 杢兵衛
- 性別
- ♂
- 年齢
- 48歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 悠々自適、風雅な隠居生活
JavaScriptを有効にすると、デジカフェをより快適にご利用できます。
ブラウザの設定でJavaScriptを有効にしてからご利用ください。
なんだろ?
2014年08月08日 02:21
ある方が身延(みのぶ)さんを信仰いたしまして、これはまぁ江戸の商人(あきんど)でございます。自分の願がかないましたので、願(がん)ほどき。身延さんへお参りをしまして、江戸へ指して戻り道、いつも行き来しているところなんですが、かえって慣れている道というのは、自分に心の油断がありまして、ちょいと道を迷いました。行けども行けども人家がない。そのうちに雪がしんしんと降り始めて、...「驚いたなぁ。こりゃ、凍え死にすんのかねぇ。野宿をする訳にはいかねぇ。
おっ、向こうに明かりが見えんな。」あすこへ行って、一夜の宿を願おうってんで...「こんばんわ、こんばんわ。あの旅の者でございやすが、
道に踏み迷いまして、えぇー、このとおり 雪が降ってまいりまして、お留めもうしていただけませんか?」「あい、すいません。
手前どもは、娘が三人の私、つまり女のよったり(四人)暮らしで、えー、
男の方は留める訳にまいりませんのですが、...」「いや、おかみさん、そんな薄情なことは言わないで、 これも身延さんの引き合わだと思いまして、
地獄に仏のたとえで、えぇー、どこでもよろしいんで、土間の隅でも結構ですが、 えー、お留め申していただけませんか。こうやっている間にも、
体が、何ですか、凍えてきそうでございまして...。」「さようでございますか。それじゃ、まぁ、無下にお断りもできませんから、どうぞこちらへ。」と、締りを外して、田舎家の女主(おんなあるじ)が旅人を家(うち)の中へ招(こう)じ入れる。いろりへ粗朶(そだ:細い木の枝)をくべまして...「どうぞ、おあたりを。」「えっえっえっ。すいません。何よりのごちそうでございまして。
この上、火に当たらしていただけるなんぞ、ありがとうございます。」「あの、おっかさん。お風呂が沸きましたけど。」「そう。じゃ、旅の方、おもてなしもできませんが、
どうぞ、お風呂などお召し上がりくださいまし。」「この上、お湯を頂戴できる。へぇへぇ、ありがとうございます。」と、旅人が礼をいいながら、湯殿(ゆどの)へ行きました。湯船へ浸かって、今度は流しへ出て、体を洗い始めた。ところが、いぶせき、田舎のあばら家ですから、湯殿の戸なんざぁ節穴だらけ。三人の娘がこの節穴から中を覗いてる。「あら...
お姉さんたち...」「なあに」「今、私、覗いてたけど、初めて見た。男。あれが、男っていうんだねぇ。」「そうなんだよ。なんか、変わっているかい。」「変よ。」「何が変だい。」「だって、私たちが山で見る、けだものやなんかは尻尾が後ろにあるでしょ。
あの人、尻尾が前にぶらさがっているわよ。」「あら、そうかい。じゃ、私が覗いて...。あらっ、本当だよぉ。お前さん、見てごらんよ。」「そお。じゃ、私も...。まあぁー、変なもんね、あの尻尾。何かしら、あれ。
触ってこようか。
お姉さん、ねぇ、じゃ、年の順にさ、一番下の私から行ってくるわ。」「そうかい、じゃ、お前、早いとこ触っておいで。」旅のお方、「何ですか。お嬢さん。」「すいませんが、お姉さんたちと相談が出来上がったの。」「何です。」「その、前にある、その尻尾を触らせてくださいな。」「おー、こんなもんでよけりゃ、別に減るもんじゃないし、どうぞお触んなさい。」「行ってきたわ。」「何だったい。あれ。」「何か細長い、肉のようなものよ。」「そう。じゃ、あたしが行ってくるわ。」真ん中の娘が触りに来たときには、最前、この若い娘が触った後ですから、そう柔らかくはない。「行ってきたよ。」「何だったい、ありゃ。」「ちがうわよ。あんた肉っていったけど、あんな硬い肉があるかね。ありゃ皮だよ。」「じゃ、あたしが。」ってんで、総領娘が触りにきたときには、すっかり、この硬くなった。「ありゃ、違うよ。お前。ありゃ、骨だよぅ。」「違うわ。肉だったわよ。」「いいえ、皮よ。」「違うよ。ありゃ、骨だよ。」「うるさいね。お前がたは何を言い合いをしているんだい。肉だ皮だ骨だって。」「実は、おっかさん。ねぇ、旅の方の、あの尻尾を触ったのよ。」「ばっかだねぇ。お前。あんなもん触っちゃだめだよ。」「でも、あれ、おっかさん、肉でしょ。」「いいえ、骨よねぇ。」「皮でしょ。」「いいや、あれは、骨でも肉でも皮でもないよ。ありゃあ、ねぇ、水鉄砲。」
このウラログへのコメント
コメントを書く