- 名前
- 絵梨菜
- 性別
- ♀
- 年齢
- 55歳
- 住所
- 京都
- 自己紹介
- 特になし
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過去への旅(桜に誘われて。。。)
2009年03月31日 00:45
昼下がり。
年度末で混雑気味の京都の街を車で走る。
穏やかな季節の風と桜の花。
心とは裏腹の景色が痛い。
マンションの入り口で躊躇する。
(まだ、少し早いかな?
なんで私、手土産にケーキ持ってるんだろ。)
オートロックってやだなぁ。
インターフォンで呼び出すのか。。
「△△です。お邪魔してかまいませんか?」
「ああ。どうぞ。開けますね。」
(昨日の電話と同じかすれた声だ。)
ドアが開き、エレベータに乗って3階へ。
部屋の前まで。。。
(ここでもチャイム鳴らすのか。)
「どうぞ。入ってください。散らかしてますけど。」
中から出てきた人は、細身の綺麗なおばあさん。
色白の肌、口紅が赤い。
(60代後半だからおばあさんは失礼かな?)
「突然すみません。あの。。。これ良かったら。」
「あらあら。すみませんねぇ。」
(散らかってないやん。)
玄関に薔薇の花。広いリビング。。。
(結構な暮らし振りみたいやなぁ。)
「小さい頃。一度会っているのですよ。」
紅茶をテーブルに置きながらその人は言った。
「そうですか。記憶にないです。」
「ホントに小さい頃。孝蔵さんに連れられて。」
(父に手を引かれた記憶がない。)
少し、意地悪をしてみたくなった。
「兄とは?」
「いいえ。あなただけね。」
(この人。兄を産んだこと忘れてるのかなぁ。)
「父のこと教えてください。」
「もう昔のことだから。。。何が知りたいのかしら?」
(何が知りたいのだろう。何を知っていて、何を知らないのだろう。。。)
一番聞きたかったことが先に出る。
「父との関係は、母と結婚する前からですか?」
「どうだったかなぁ。孝蔵さん、スナックのお客さんでね。」
(母は、父のことコウゾウさんとは呼ばなかったなぁ。)
「初めて飲みに来てくれた頃は、まだ独身だったと思うけど。。」
「結婚するとか言って来なくなって。暫くするとまた来るようになった。」
「お酒。好きでしたからねぇ。」
「だねぇ。浴びるほど飲んでたねぇ。毎日。。。」
「父。飲むと暴力振るいましたよね。」
「そう?優しい人だったよ。」
「母には良く暴力ふるってました。」
「淋しがり屋だったからね。甘えもあったんじゃない。」
(甘えねぇ。アンタには優しかったのか。。。)
「孝蔵さんには色々と良くして貰ったよ。このマンションも買ってもらったの。」
どうやら。
父は、相続していた土地を売ったお金でヒナさんにマンションを購入したらしい。
えらくリッチじゃないか。
ひもじい思いはしなかったけど。
兄と私を大学に行かせるだけの甲斐性はあったけど。
愛人にマンションを与えるほど金持ちではないだろう。
「どんな様子でした?ここでは。。」
「私に対しては優しい人でしたよ。指輪やネックレス買ってきてくれたしね。安物だったけど。」
(安物ってオイオイ^^;)
(母は、その安物の指輪さえ買ってもらえなかった。)
「外ではトラブルばかり起こしてた人だけど。
ほんとは優しいいい男だったよ。
格好も良かったしね。背が高くてハンサムだった。(笑)」
(父そっくりの兄の顔が浮かんだ。)
「うちでは、暴力ばかり振るってました。お酒飲んでる姿しか出てこないです。」
「家庭のこと、あまり話さなかったから。」
(だろうね。愛人に家族の話はせんやろ。兄のこともしなかったのかな。)
「写真見る?古いのやけど。」
テーブルに置かれた数枚の写真の父は、どれも綺麗な女性と肩を並べて微笑んでいた。
私の記憶にない父の笑顔だ。
「旅先ですよね。」
「そうそう。良く旅行したっけねぇ。」
(母とは一度も旅行など行かなかった)
「父。なに考えてたかわからない人で。。。。」
「気の優しい人やったと思う。
人と接すること苦手だったよね。
騙されてばかりいるって良く言ってたなぁ。
だから、人が嫌いになったって。」
「母のこと。どう思ってたんでしょうねぇ。」
(何を聞いてるンだ私。。。)
「さぁねぇ。大切に思ってはったんと違うかな?」
「そうでもないような。(苦笑)」
(大切な人を殴らんだろ。フツウ。。。)
「甘えてたんじゃない?奥さんだから。。」
「そうなんでしょうか。。。」
父はヒナさんの前では。
優しいいい男だったようだ。
良く会話もしたらしい。
変わらず、お酒は沢山飲んでいたようだが、暴力は振るわなかったらしい。
ヒナさんにとって父は、楽しい思い出を残してくれた人だったようだ。
(少し、嫉妬した。)
「母とは、会いました?」
「ええ。会ってますよ。お話もしたかな?」
(愛人と正妻。ちと怖いものが。。。)
「いい奥さんだったねぇ。おとなしい人やった。」
(どんな気持ちで愛人に会ったのだろうか?)
ヒナさん。。。
最後まで。
詫びることはしなかった。
兄の消息は尋ねなかった。
晩年の父の様子も聞かなかった。
仕送りのことも口にださなかった。
「遠い昔のことで片付けてしまう」
(これがこの人のズルさかな。。)
私も、ヒナさんに恨み事は言えなかった。
言っても仕方ないことは口に出さない。
「遠い昔のことで片付けられない」
(これが私のズルさかな。。)
結局。
会いに行っても父のことがはっきりとわかったわけではない。
また一つ、別の顔を見つけただけ。
でも。会いに行ってよかったと思う。
良かったと思おう。。。
夕餉の買い物を終えて帰宅する。
ガレージに桜の花びらが落ちていた。
混乱している私は、涙も出ない。
22時過ぎ。。。
帰宅した主人はなにも聞かない。
黙っていつものようにご飯を食べている。
(この人の心の中にも闇があるのかな?)
「ヒナさんに会ってきました。」
「そうですか。」
「桜、綺麗でしたよ。」
「うん?」
「良いお天気でしたからね。道すがら。。。」
「ちょっとしたドライブでしたか。満開で?」
「いえまだ、八分咲き。。」
(この人の心の中にも鬼が棲んでいるのかな?)
差し出されたその腕に寄り添いたくなった。
このウラログへのコメント
> rousillonさん
桜に覗きこまれたら。
ヒナさん。
笑うのかな?
泣き出すのかな?
あの日。桜を見上げていた母のように。。。
> hayatoさん
良かったのか、悪かったのか。
まだ結論はでていません。
最終的に良かったんだと思えるようになりたいです。
心の闇。。
隠し通せるものなら。。
> カニさん
詫びて欲しくて会いに行ったわけではないですけど。
いや。本当は、詫びて欲しいのかな?
詫びて欲しくないと言っているのは、私の意地かもしれません。
> ゆきおさん
スタートラインで、先に見えるゴールが怖くて立ち止まっています。^^;
> こうもりさん
ありがとう。
負け戦。。。
確かにね。
それでも。。。
私には味方についてくれる優しいあなたがいる。
そのことだけでも充分にヒナさんに勝っていると思いたいです。
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