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書きかけの小説を晒してみる

2024年05月29日 19:04

小説 きみは素敵だ

 君は素敵だ。
 いつの日か、こんな台詞を誰かに送りたいと思っていた。しかし、その願いは叶うことなく、年月だけが過ぎ去り、僕は腹の出た中年おっさんになっていた。絶望的にこんな台詞は似合わないおっさんなのだ。悲しい事に、頭の中は少年のままだった。腹は少年の頃から出ていた気もしないが。
森田ァーーッ!!てめーー!まぁーた、やりやがったなーーッ!!」
 反社感丸出しの怒声で、僕は現実に引き戻された。日々の過酷な労働で、すっかり時間間隔が狂っていたが、今は夜勤仕事中なのだった。
「引き漏れしてんじゃねーぞコラァ!! 寝てんのか!? あ!?」
いちいち相手するのも面倒臭かったが、仕方無しに後ろを振り向く。『特攻の拓』は全巻家にあります!と言わんばかりのリーゼント頭の男が、顔を醜く歪ませ僕を睨み付ける。
「仕事舐めてんじゃねーぞ! 今なんか流れ大したことないじゃねーか! やる気ねーなら、辞めちまえよ!!」
「すいませんでした」
「今度引き漏らしたら、引き漏らした荷物をてめーのケツ目掛けて、思いっきりブン投げるからな!! 覚悟しとけよ!! それで荷物が壊れてもてめーの責任だからな!! はっはっは!!」
 うまいこと言ってやったという表情で笑うリーゼントこと石橋だったが、周囲の人間は誰も笑っていないのだった。

ーーさて、僕が夜勤で働く職場は某運送会社の営業所。各地からやってきたトラックに積まれた荷物を、ベルトコンベアで流し込む。僕ら夜勤バイトの人間は、ベルトコンベアに乗って流れてきた荷物を接続されたローラーで引き、それを住所ごとに設置されたカーゴに積み込む。まあ、簡単なお仕事です。と言えば、そうなんだが、こんな仕事でもなかなかどうして色々大変なのだ。最近は、2024年問題とか、その影響もあるし、人は常に足りないし、老若男女が集まりもすれば、まあそれなりに問題は日々、起こる。

「おいっ、森田くん、さっきは大丈夫だったかい?」
 同僚の小林さんが話し掛けて来た。僕はベルトコンベアから流れてくる荷物を引く担当で、この荷物をカーゴに積み込む担当が小林さんなのだ。
石橋のヤツ、ムカつくよな。あいつ、ちょっと長くいるからって、調子に乗っちゃって、まあ」
「しっ、小林さん、石橋さんに聞こえたらまずいっすよ。あの人、気に食わない奴は辞めるまで追い込むって有名じゃないですか。何人の新人が辞めさせられたと思ってるんですか」
「おれは大丈夫!」
なんだか腹の立つようなドヤ顔で、小林さんが言った。こんなんが相棒(バディ)で、僕は大丈夫なのだろうか。
「おれは、あいつより長くいるし、それにさ、ねえ?」
 無精髭を人差し指で弄りながら、含み笑いを浮かべる小林さん。その汚い髭、剃ってくれないかな。
「なんすか小林さん、なんかあるんすか?」
石橋の新しい相方、先週から来てる子、いるじゃん、森田くん知ってる?」
 新しい相方言われても、酷いときは毎日のように変わってたりするからな。正直、他人の事などたいして興味無い僕には、どうでもよい事だった。
「え、まじ知らない感じ? 女の子新人が入ったんだよ! お、ん、な、の、こ!」
その表情自体が既にセクハラだよ!とツッコみたくなるようないやらしい笑顔小林さんが言った。そういえば、先週の朝礼で一風変わった感じの新人が入ってた気がしたが、あれは女の子だったのか。そろそろ初夏だというのに、ぶかぶかのジャンバーを着込み、メガネマスクで表情すらよく、わからない。その、わからなさだけが印象に残っていた。
「その女の子にね、あの石橋が、興味津々らしいよ! なんてったって、あの子、……ふふっ」
 勿体振った言い方で、言葉を濁す小林さん。
「あの子がなんなんすか」
若干苛立ちながら聞く僕に向かい、小林さんは、それだけで猥褻物陳列罪が適用されそうな表情で応えるのだった。
「あの子ね、デカいよ。ふっ、ふふっ、森田くんも今度見てみなよ! なかなかだよ! あれは」

そろそろ50代に突入しようというのに、煩悩まみれの小林さんが僕には、ある意味羨ましかった。さぞかし人生楽しいだろう。
「見てみろ言うても、僕は小林さんみたいに自分に素直になれないっすから」
大丈夫だよ、ちょうど胸元に名札が付いてるから、名札を確認する体で見れば大丈夫
 ああ、なるほど。
「で、その、はちきれんばかりのを石橋が狙ってるんじゃないかって、そんな話」
「はあ、結局、その女の子の名前は?」
「なんだったっけ、忘れた!」
いやお前、名札を見る体で、って言ったばっかやろ、知らんのかい!
「まあ、おれはね、こう見えてプライバシーが充実してるからさ」
それを言うならプライベートだろ、とツッコむ気も起きなかったが、小林さんが「つづき聞きたいだろ!?な!な!」と言いたげな顔でニヤニヤしていたので仕方無しに、話の続きを促す
「なんかいい事でもあったんすか? 万馬券でも当たったとか? それともパチンコ?」
 ここはその手のギャンブルが好きなのが多いからな。僕は興味無いけど。
「いやいや、違うよ、おれ、やっぱり自分が魅力的な男だったんだって、再認識してさ」
急に小林さんが真顔になる。頭でも打ったんだろうか。

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