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素敵な話…あるレジ打ちの女性の話(長文です)
2012年02月26日 21:20
『レジ打ちの女性の話』
その女性は何をしても続かない人でした。
田舎から東京の大学に来て部活やサークルに入るのは良いのですがすぐ嫌になって次々と所属を変えていくような人だったのです。
そんな彼女にもやがて就職の時期がきました。
最初彼女はメーカー系の企業に就職します。
ところが仕事が続きません。
勤め始めて3ヶ月もしないうちに上司と衝突し、あっという間にやめてしまいました。
次に選んだ就職先は物流の会社です。
しかし入ってみて自分が予想していた仕事とは違うという理由でやはり半年ほどでやめてしまいました。
次に入った会社は医療事務の仕事でした。
しかしそれもやはりこの仕事じゃない、と言ってやめてしまいました。
そうしたことを繰り返しているうちいつしか彼女の履歴書には入社と退社の経歴がズラッと並ぶようになっていました。
すると、そういう内容の履歴書では正社員に雇ってくれる会社がなくなってきます。
ついに彼女はどこへ行っても正社員として採用して貰えなくなりました。
だからといって生活の為には働かないわけにはいきません。
田舎の両親は早く帰って来いと言ってくれます。
しかし負け犬のようで帰りたくはありません。
結局彼女は派遣会社に登録しました。
ところが派遣も勤まりません。
すぐに派遣先の社員とトラブルを起こし嫌なことがあればその仕事をやめてしまうのです。
彼女の履歴書にはやめた派遣先のリストが長々と追加されていきました。
ある日のことです。
例によって「自分には合わない」等と言って派遣先をやめてしまった彼女に新しい仕事先の紹介が届きました。
スーパーでレジを打つ仕事でした。
当時のレジスターは今のように読み取りセンサーに商品をかざせば値段が入力できるレジスターではありません。
値段をいちいちキーボードに打ち込まなくてはならず、多少はタイピングの訓練を必要とする仕事でした。
ところが勤めて1週間もするうち彼女はレジ打ちに飽きてきました。
ある程度仕事に慣れてきて、私はこんな単純作業の為にいるのではないと考え始めたのです。
とはいえ今までさんざん転職を繰り返し我慢の続かない自分が彼女自身も嫌いになっていました。
もっと頑張らなければもっと耐えなければダメということは本人にもわかっていたのです。
しかしどう頑張ってもなぜか続かないのです。
この時彼女はとりあえず辞表だけ作ってみたものの決心をつけかねていました。
するとそこへお母さんから電話がかかってきました。
「帰っておいでよ」
受話器の向こうからお母さんの優しい声が聞こえてきました。
これで迷いが吹っ切れました。
彼女はアパートを引き払ったらその足で辞表を出し田舎に戻るつもりで部屋を片付け始めたのです。
長い東京生活で荷物の量はかなりのもの。あれこれ段ボールに詰めていると机の引き出しの奥から1冊のノートが出てきました。
小さい頃に書き綴った大切な日記でした。
なくなって探していたものでした。
パラパラとめくっているうち彼女は私はピアニストになりたい、と書かれているページを発見したのです。
そう。彼女の高校時代の夢です。
「そうだあの頃私はピアニストになりたくて練習を頑張っていたんだ」
彼女は思い出しました。
なぜかピアノの稽古だけは長く続いていたのです。
しかしいつの間にかピアニストになる夢は諦めていました。
彼女は心から夢を追いかけていた自分を思い出し、日記を見つめたまま本当に情けなくなりました。
「あんなに希望に燃えていた自分が今はどうだろうか。履歴書にはやめてきた会社がいくつも並ぶだけ自分が悪いのは解ってるけど、何て情けないんだろう。そして私はまた今の仕事から逃げようとしている」
そして彼女は日記を閉じ、泣きながらお母さんにこう電話したのです。
「お母さん、私もう少しここで頑張る」
彼女は用意していた辞表を破り、翌日もあの単調なレジ打ちの仕事をする為にスーパーへ出勤していきました。
ところが「2、3日でいいから」と頑張っていた彼女に、ふとある考えが浮かびます。
「私は昔ピアノの練習中に何度も何度も弾き間違えたけど、繰り返し弾いているうちにどのキーがどこにあるかを指が覚えていた。そうなったら鍵盤を見ずに楽譜を見るだけで弾けるようになった」
彼女は昔を思い出し心に決めたのです。
「そうだ私は私流にレジ打ちを極めてみよう」と。
レジは商品毎に打つボタンが沢山あります。
彼女はまずそれらの配置を全て頭に叩き込むことにしました。覚え込んだら後は打つ練習です。
彼女はピアノを弾くような気持ちでレジを打ち始めました。
そして数日のうちにもの凄いスピードでレジが打てるようになったのです。すると不思議なことにこれまでレジのボタンだけ見ていた彼女が今まで見もしなかった所へ目が行くようになったのです。
最初に目に映ったのはお客さんの様子でした「ああ、あのお客さん昨日も来ていたな」「丁度この時間になったら子供を連れてくるんだ」とか色々なことが見えるようになったのです。
それは彼女の密かな楽しみにもなりました。
相変わらず指はピアニストのように飛び交います。
そうして色々なお客さんを見ているうちに今度はお客さんの行動パターンや癖に気づいていくのです。
この人は安売りの物を中心に買うとか、この人は閉店間際にくるとか、この人は高い物しか買わないとかわかるのです。
そんなある日、いつも期限切れ間近の安い物ばかり買うおばあちゃんが5000円もするお頭つきの立派な鯛をかごに入れてレジに持ってきたのです。
彼女は吃驚して思わずおばあちゃんに話しかけました。「今日は何かいいことがあったんですか?」おばあちゃんは彼女ににっこり顔を向けていいました。
「孫がね、水泳の賞を取ったんだよ。今日はそのお祝いなんだよ。いいだろうこの鯛」と話すのです。
「いいですね、おめでとうございます」嬉しくなった彼女の口から自然と祝福の言葉が飛び出しました。
お客さんとコミュニケーションをとるのが楽しくなったのはこれがきっかけでした。
いつしか彼女はレジにくるお客さんの顔をすっかり覚えてしまい名前まで一致するようになりました。
「○○さん今日はこのチョコレートですか。でも今日はもっと安いチョコレートが出てますよ」
「今日は鮪より鰹の方がいいわよ」等と言ってあげるようになったのです。
レジに並んでたお客さんも応えます「いいこと言ってくれたわ。今から換えてくるわ」そうコミュニケーションを取り始めたのです。
彼女は段々この仕事が楽しくなってきました。
そんなある日のことでした「今日は凄く忙しい」と思いながら彼女はいつものようにお客さんとの会話を楽しみつつレジを打っていました。すると店内放送が響きました。
「本日は大変込み合いまして申し訳ございません。どうぞ空いているレジにお回り下さい」
ところが僅かな間をおいてまた放送が入ります。
「本日は込み合いまして大変申し訳ありません。重ねて申し上げますがどうぞ空いているレジの方へお回り下さい」
そして3回目。同じ放送が聞こえてきた時に初めて彼女はおかしいと気づき周りを見渡して驚きました。
どうしたことか5つのレジが全部空いているのにお客さんは自分のレジにしか並んでいなかったのです。
店長が慌てて駆け寄ってきます。
そしてお客さんに「どうぞ空いているあちらのレジへお回り下さい」と言ったその時です。
お客さんは店長に言いました「放っておいてちょうだい。私はここへ買い物に来てるんじゃない。あの人と喋りに来てるんだ。だからこのレジじゃないと嫌なんだ」
その瞬間、レジ打ちの女性はワッと泣き崩れました。
お客さんが店長に言いました「そうそう、私達はこの人と話をするのが楽しみで来てるんだ。今日の特売は他のスーパーでもやってるよ。だけど私はこのお姉さんと話す為にここへ来てるんだ。だからこのレジに並ばせておくれよ」
彼女はポロポロ泣き崩れたままレジを打つ事が出来ませんでした。
仕事というのはこれ程素晴らしいものなのだと初めて気づきました。
既に彼女は昔の自分ではなくなっていたのです。
それから彼女はレジの主任になり新人教育に携わりました。彼女から教えられたスタッフは仕事の素晴らしさを感じながらお客さんと楽しく会話していくでしょう。
このデジログへのコメント
ビショップさん:そうですね♪どんな所で変化が起こるかわからないものですね
阿木さん:有難うございます仕事を極めるって凄いことですね
ななさん♪ いつもいい話・感動の話ありがとうございます
人生の素晴らしさを味わわせていただいています
秀55さん:こちらこそ長文だったのに有難うございます読むの大変だったでしょう
受け止め方次第で、天国にも地獄にもなりますね。プラスに考えて経験値積むとまた別の世界が広がりますね。
やじさん:ほんとですね♪まだまだだな~私は
マジーカ2世さん:ですね♪こんな話が沢山入った教科書があればいいな~
大学の就活前の、必須科目にしては、如何でしょう
公務員、一部上場ばかり言ってるバカ学生に
管理貞操帯さん:確かにやってみるといいかも
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