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干拓地奇譚(10)

2010年02月23日 01:13

「この辺の土、水、はねまわってるカエルやフナ、ウナギ。すべてをよごしてるコプラナーPCBにも言えるコトをしゃべってるんだ。きいとけ」

「。。。おいちゃん、また来てる、ほら」

「フム。。。。。」

今度は、普通のフナだった。ヘラブナにまじって、フナがヘラエサをつつくことがあるけど、滅多に針にはかからない。達人は、ヘラウキの動きでフナだとすぐにわかるし、がかからないようにサオを操作できるって話だ。おいちゃんは達人だけど、なぜか、この獲物を「あわせ」た。。。。かかった。。。こいつは以外とデカい「外道」(目的じゃない釣り魚)だ。

おいちゃんはタモにはいって暴れているそいつを、黒い地面においてみる。

「やっぱりな」

嫌な予感とともに俺は身をのり出して、おいちゃんがアゴで指し示したその、化け物めいた双頭多眼の生き物を覗きこんだ。。。。

このような奇形が、ここまでデカくなるのは異常だ、というコトらしかった。なんでなんすか?!とさわぐ俺に、おいちゃんは「成長や形質が操作されるような環境がある」っていうような事を、なんというか、言葉をえらびつつ、という風情、水面を見すえて、小声で話した。俺はよく意味もわからぬまま、「こいつもあのクソどもの犠牲者っすよね!?」などと息まいた。

「。。。。T化学のビル、あるだろ。いちばんでかいやつ。東新町あたりからよく見える」

「あれっすね。最近白くぬりかえられましたね。ムカシは化学肥料つくってたって父がいってました」

「今、連中が何をやってるか、おまえに一応、話しとくか。。。。」

「なんかまだヤバい話っすね!俺、知ってるんですけど、たしか戦中に爆発赤痢ってのがこの町ではやって、すげえ犠牲者出たって。T化学、そんときなんか軍の委託で化学だか生物兵器だかをつくってたんじゃねえかって」

「まあ、陰謀論の域は出んが、そこそこ的を得てる」

「え?じゃ、今もなんかサリンとか化学兵器とかやってんすね?!」

「それは無え。近代兵器に利用される化学物質は、製造物も副産物も処理が非常に厄介で、人間の居住区で製造する事自体、国家には自滅的だ。そもそも、海外での交戦は憲法違反。国内で化学兵器は自国民に被害を出すから利用できるわけがない。つまり日本で化学兵器製造される理由が、ない。おまえ、もーちっとアタマいいかと思ってたぞ」

この程度の冷酷な揶揄でヘコんでいたらこのオヤジとはつきあえねえんだ。俺はかまわずくいさがる。

「んじゃなんスか?わざわざ汚染するために汚染物質をつくってるとか、ないすよね??」

「。。。。それ。それが、もしかしたら、一般的にこの事態を見た場合の表現かもしれん」

「この事態を見た場合、って、その事態って。。。」

「。。。M島」

おいちゃんは、唐突に、A 海にうかぶ人工島の名前をつぶやく。

「は?あ、はい、M島。あれが、なんか」

「おまえ、来週の週末はヒマか?」

こんな事を言ってくれるのは、初めてだった。もう当然、とびつく。

「暇っす!暇っすよ。学年末試験中だけど暇っすよ!」

「あほか。んじゃ来週はやめとこうか」

「何すか何すか?ほんと、もうどこにでも行きますよ!なあんか、もうじれってーおいちゃん!」

と、ここまで興奮して、ハタと我にかえる。おいちゃんは、氷のごとき無表情で、俺を凝視してる。たまに感じる、あのゾクゾクする不気味さを思い出して、俺は下顎をかくんと落したまま、おいちゃんを見た。

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