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干拓地奇譚(4)

2010年02月12日 00:45

そのあたりから、おいちゃんの口は、どうも歯切れがわるくなった。俺が、化学工場の会社と市の対応をののしったり、この広大な干拓地についての絶望的な「事実」をまくしたてて、おいちゃんの見解をひきだそうとしても、「まあな」だとか「それはそうだな」だとかしか言わなくなってしまった。

水面を凝視するおいちゃんに、俺は前から聞こうとおもっていて、どうも踏みとどまってた事を、ついに口にした。

「おいちゃんはさあ、あれですかあ、そのう。。。会社側の人間だったりすんの?」

おいちゃんは首をうごかさず、俺の方へチラリと視線をよこしたが、また水面を不熱心にながめやるあのポーカーフェイスへと回帰した。

「俺は、漁師だ。ふふふふ、つまんねえ穿鑿すんなよ。子供がモメゴトに頭つっこむと、おまえじゃなくて親御さんが迷惑する」

「てかさあ、俺もさあ、このへんのワルガキなわけでさあ、変なものが土ん中とか水にとけてたりしたら、ホント嫌なんだよね。市の役人とか、ぜっていあやしいっすよあれ。F岡のテレビ局が取材に来てたじゃないすかこないだ。インタビューうけてた市役所の担当、汗びっしょりかいて」

おいちゃんのウキがピクンとうごいた。食いはまだ浅いか。おいちゃんは、自分のヘラ竿(竹製の、どう見ても超高級品)のグリップに手をのばしながら、今度は首をまわして俺の方を正面から見すえた。眼光が、大ヤクザの親分かという程、ものものしい。ギョっとして身をひきながら、

「。。。べつに、頭つっこまねえよ。でもさあ干拓のフナやら、A 海のムツゴロウとかがさあ、変な重金属とか有機物でやられておかしくなっちまったらさあ、あれじゃないすか、嫌だしぃ、改善できたらいいなあって」

「まあ、おまえはスルドい餓鬼だ。追い追い、俺の『作業』に参加させてやらんでもない。しかし、今はまだダメだな。まずその変な自信を、何とかしろ。ふふふふ」

おいちゃんの言葉づかいを、センセイめいた物言いと俺は表現した。しかし、この時のこの会話は、どうも俺をおぞけ立たせるものがあったわけ。この男、センセイなんかじゃない。生物についての、異様なほどの専門知識とのコントラスト。それは、いつでも首をヘシ折れるが、少々猶予をあたえてやるぞ、という、プロの暗殺者が獲物のパンピーを哀れんでいるような風采があった。

「あのさあ、。。。。俺もガキだし、そんな知らねえ事いっぱいあるって、そりゃあわかってますよ。でもさあ、いろんな事が、すんげームカつくんすよ。ぜえんぶウヤムヤになってく感じじゃないすかあ。俺、けっこーT化学について調べたんすよね。ウェブもあたったし図書館史料もコピーして」

「ほほう。。。見込んだだけある」

「でですね、そのぉ、もうダイガクとかで勉強する化学、つうか、有機化学ってやつっすかね、ダイオキシンとかのハナシをですねえ」

おいちゃんの反応が、以前とはちょいと変わってきた。ちらりと俺を見るあの所作はいいんだが、なにか不機嫌さがただよいはじめた。なんだっけ?俺が言った言葉に、今や巷じゃあ有名すぎる程な、「ダイオキシン」という化学物質カテゴリーの名前があったよな?

この名前、この地域の公害問題では今のところ目立って取り沙汰されてはいなかった。このあたりの問題ってのは、主として、重金属なんだ。しかし、俺が図書館で見た、環境省レポートの一つに、ある種「もってまわった」言及があった。それを思い出して、なにげなく口にしたにすぎない。他ならぬこの地域についての、実にぞんざいな調査報告なんだが、そこに、たしかにダイオキシンについての記述があったのだ。

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