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干拓地奇譚(6)

2010年02月15日 17:46

「.........ダイオキシンが DNA を『損傷する』っつうのは、単純な間違いだ。まあメディアがアフォなのは仕方ないし、俺らはそれを折込みずみな事実として、判断し行動せんといかん。なあ小僧

40センチ近くもあるヘラブナだった。おいちゃんの手際は、まったく無駄のない動物的な動き。タモがなめらかに動作して、運わるくイモの味にさそわれたこの暴れる大物を、やさしく地面におろす。ビクん中にはすでに6~7匹はいってるか。

「いや、つか、あのぉ....ぜんぜん解んなかったんすよ、まじで」

一月ほど前、俺は市立図書館に出向き、不相応な書類を片っぱしから読みあさって見たものだ。書架に重々しくならんでる環境省の「環境アセスメント」やら「有害物質基準値調査」なんぞを数年聞かかえ、芝居じみたシカメっつらを維持しながらどさりと机上におく。数年前の分から去年にいたるまでの、A 海および周辺地域の環境変化についての、数値データがならぶ。魚介類の漁獲量くらいならその変化はまあ理解できる。聞いた事もない化学物質の各所での計測値については、まあ「ふえてんなあ」だとか「ほほうへってる」くらいなもんで、意味合いが洞察できるわけもない。

「何を、しらべた?おぼえてっか?」

「やーそのぉ、だめっす、わかんない。もう今すぐダイガクいって色々知りてえよ」

「ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシンなんつう言葉はあったか?その頭に2ー3ー7ー8とかついてる」

「は?ポリエチなんすか?」

「まあ物質名はどーでもいい。理屈はどうだ?メモくらいとったか?」

「コピーしてもらって、もって帰ってきたけど、読み返してもわかんねえし....やだなあ、ほんっとイライラくる」

「あわてんな。しかし...いいぞいいぞ。俺が見込あるガキあつめて修行させてやりたい位だが、あんまり目立ちたくないんでな」

「いやおれ口かてえっすよ!有機化学っつう分野すかね?生化学?ガッコやすんでおいちゃんとこ来ますよ!主席クボタも来ますよ!中学のセンコウなんてホント」

「やめとけ。要件基準がその程度というコトだ。やつらのせいじゃない」

「いやヒドいんすよ。もう数学のA沢とか、ほんとにダイガクで何べんきょうしてたんすかね、あれ」

「.......」

「....すません、ええと何でしたっけ」

「ま、環境省がどのくらい『深刻にやってるか』も信頼おけねえしなあ。....まずな、焼却やら廃棄で、まあ『しかたなく』排出されちまう『ダイオキシン』ってのは、まず、どこにでもあるぜ。というかな。このクニ、世界で断トツに排出してるわけだわ。いいか、そこに、『下地』がある。その物質が何をやらかす『可能性』があるのか、誰も知らねえし、知ってるヤツも知らねえふりしてる。ふっふっふっふ」

断トツって、まじっすか?!それって、みんな危険なのを知らねえからこそって事すよね。あの、このへんも、T化学のクソ野郎どもが住民の無知をいいことに垂れ流してるんすか」

「『排出』してきたのは、まあ従来の定義でのダイオキシンだ。主として PCB な。聞いたことあんだろ」

「いやソレ、おもい出しました。図書館で何度も見ましたよ。PCB って、体にはいったらどうなるんすか?」

「....むしろそれは、問題が普通にとりあつかえる、っつう事で『たいしたことない』とも考えられる」

「いやあの、おいちゃん、PCB って」

突然、おいちゃんは向きなおった。やはり射貫くような眼光。...俺はちょっと妙な雰囲気に気づく。おいちゃんは俺を「うたぐって」いた。無力な中学生相手にして、何に疑いをいだいているのか、その時点での俺には、わかる筈もない。

それにしても、「たいした事がない」と断言してしまう意味が、俺には皆目見当つかない。猛毒が永きにわたって排出されてきた事が、「たいした事ない」わけがない。とすれば、おいちゃんは、比較論を口にしたんだ。

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