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チャイニーズガール

2011年09月10日 16:41

麗は浦東空港へ向かう高速バスの座席で腕時計を見ていた。


大丈夫、まだ1時間あるわ・・・)


腕時計から視線をあげた麗は、流れいく景色を眺めながら剛志との出会いを回想していた。


(もう3年が経つのね・・・)



・・・



2007年7月
上海は熱い夏を向かえていた。
連日35度をこえる毎日だ。
19歳の麗は虹橋(ホンチャオ)区のコンビニエンスストアでバイトをしていた。
バイトと言っても麗にとっては本業である。
時間給6元(90円)のこのバイトで月に1200元(18000円)を稼ぐことができた。
麗の故郷上海から距離にして250キロ内陸の片田舎だった。
故郷には高校数学教師をしている父と経理事務をしている母、それと高校に通う弟がいた。
麗は本名を麗平(レイピン)と言った。


高校卒業上海へ上京した麗に特に当てがあったわけではない。
友人ふたりと故郷を飛び出して、アパートを一部屋借りていた。
家賃はひとり200元、残った1000元から半分の500元を故郷に送金していた。
麗たちが虹橋区を選んだのは、そこが日本人街だったからだ。
日本企業の赴任者が多く暮らしている。
治安がいいことも理由のひとつだったが、麗は高校時代日本語を選択していたことが一番の理由だった。
日本人お金持ちも多いし気前もいい。
そういった印象を強く持っていた。

上海に来て3ヶ月が過ぎたころ、杉本剛志が麗の前に現れた。
現れたと言っても偶然、麗の勤めるコンビニに買い物に来ただけなのだが。
杉本は牛乳ビール食パンカップ麺といったありふれた食材を籠にいれて麗の前に差し出した。


「ニー・ハオ」


剛志が話しかけた。
商品にバーコードリーダーを当てていた麗は視線を上げる。


「ニー・ハオ・・・」


麗は笑顔を作ってそう答えていた。

しかし剛志からは次の言葉が出てこないようだ。


中国語話せないのかしら・・・)


そう思った麗は日本語で話しかける。


「いらっしゃいませ。日本の方ですか?」


「ああ・・・そう。きみ日本語わかるの?」


「少しだけ・・・」


「そう!よかった。僕、中国は初めてなんだ。少し心細くてね」


こころぼそい・・・?」


「ああ、えっと・・・心配なんだ」


「心配、ああ大丈夫このへんは安全です。」


ふたりの出会いだった。

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