美咲・護国寺にいく

私は今、東京にいる

大阪の会社を２月末に辞め
心機一転、東京に出てきた

何かを変えたかったんかもしれん
職場の人間関係に倦んでいたのが
直接の原因やった

母さんは心配しとったけど
可愛い姪に逢えんのも寂しい
でも、私は人生の曲がり角のいると思ったんや


渋谷の書店で契約社員として就職先を見つけ、アパートは豊島区雑司ヶ谷に借りた
なんとなく江戸の郊外の面影を残す町並みが
気に入ったのが理由や

ちょっと味のある４階建ての古いアパート。そう、マンションという豪華そうな名前は似合わん。その面構えと場所にしてはお得な家賃が私は気に入っとる


新しい生活を始めて２カ月が過ぎた
久しぶりの休日はゆっくり出来そうやったんで、東京に来て初めて寺社巡りをすることにした


最初に向かったんは護国寺
歩いて行ける名刹や

私が雑司ヶ谷に居を構えたんも
実は護国寺が関係しとる

好きな歴史小説『付添い屋・六平太』
浪人の六平太の情人の髪結いおりきが住んでいたのが、護国寺前の門前町・音羽やった

その人情の感じられる町の雰囲気に憧れていた私は、東京に住むならその近くにと決めていたんやった


護国寺は、５代将軍綱吉の庇護を受けて栄えた寺で、本堂は先の大戦や大震災に襲われながらも姿を変えず、江戸の雰囲気を今に伝えてくれているのが嬉しい

平日で人気の少ない境内からは、なんか、歴史小説の登場人物が飛び出して来そうな気もする

本堂の中に入ってお参りして
御朱印を頂く

なんだかんだで御朱印帳に御朱印を集めるんは、ちょっとミーハーやけど楽しくて趣味の一つになった


境内の木陰にある木星の椅子で休憩をする
五月晴れの日差しは強く、少し風もある日陰はありがたい

持ってきた水を飲みながら色んな想念が、私の頭の中を巡っていく


大学の時、「意識の流れ」って習ったけど、人の思考の流れは面白いな

新しい職場のこと・・・
そこで出会った上司・同僚達のこと・・・
ちょっと気になる隣の課の学習参考書担当の
江藤さんとのこと・・・
母さんのこと、姪のこと・・・
夏用の服は何を買おうかな・・・
家のインテリア、何か買いたいな・・・

私は取り留めのない流れを断ち切り
次の目的地・鬼子母神へ

都電荒川線・鬼子母神（きしもじん）駅も近く、参道のケヤキ並木を通れば鬼子母神やった

ここもええなぁ
なんか落ち着くなぁ
大イチョウもええなぁ

雑司ヶ谷から鬼子母神辺りは
江戸時代は諸侯の下屋敷が沢山あったそうで
込み入った街の中に寺や樹木も多いところや

なんかそんな町並みが私は気にいっとる
何気なく佇んでいる巨木をこの大都会の中で見ていると、なんか心が癒され、私を守って励ましてくれている
そんな気さえもしてくる

鬼子母神から法明寺を通れば
もう池袋の東口・西武デパートが見えてくる

三省堂書店さんで散策して
併設しているカフェへ

前から本屋は好きやったけど、書店で働くようになって、その本の並べ方や品揃えなど、別な観点で他の書店さんは勉強になる

私も、そういう書棚を作っていきたいなと思う

暑い中をいっぱい歩いたんで、カフェでアイスのカフェラテと小さいケーキで一休み

あぁ、今度は同期の由紀ちゃんと
カフェしたいなぁ

コロナも落ち着いて来たし
お酒を飲みながら女子会もええなぁ

さぁ、美咲
また明日から頑張るでぇ～

私はリフレッシュした心の中で
小さく呟いた