- 名前
- かつみ
- 性別
- ♂
- 年齢
- 57歳
- 住所
- 神奈川
- 自己紹介
- メールの返事遅れます
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あさみ山形へ行く
2024年09月21日 08:21
夢ならば どれほどよかったでしょう・・・
旦那と別れてしまった時のことを考えると、今でも有名な歌詞の通りに考えてしまうんやった
あの時、私も子供やったんかな?
別れないで済む方法は無かったんかな?
別れんかったら今頃は
詩織と三人、
家族でどんな暮らしをしとったんかな?
旦那のこととなると、時々、取り留めもない考えに私は陥ってしまうんやった・・・
旦那とは、病院勤務の同期の里美の
紹介で知り合って
付き合って2年で結婚したんや
私が25歳、旦那は28歳
2年後、旦那は先輩に誘われて会社を辞めて
独立をしてベンチャー企業の
共同経営者になったんや
そん時、娘の詩織が
私のお腹の中にいたんやった・・・
ベンチャー企業は最初の3年は順調やった
それから風向きが変わってきて
段々と資金繰りも厳しくなってきて
そして共同経営者の先輩が
失踪したんは確か詩織が6歳の時や
それで旦那の会社は倒産して
多くの個人負債も抱えることになった
それで
家にも借金の催促の電話がかかってくる
気が休まる時が、ひと時もない感じやったな
あん時は
「これからどないするん?」
子供を抱えて育てなあかん私は
旦那を日々、問い詰めていた
旦那は段々と憔悴して
私の問いかけにも段々と
答えんようになった
そして
「別れよう。麻美や詩織に迷惑をかけるのは
耐えられんよ」
「あんたはどうするん?」
「俺一人ならなんとかなるよ。生活費・養育費は入れるから。
一緒にいたら、みんな駄目になってしまうだろ?」
私は何も答えられんかった
でも、あん時は、
「あぁそうするしかないかなぁ」
そんな風にしか考えられんかったんや
それ程、借金取りの電話や家への押しかけなどに
旦那との言い合いなどに
そんな中での育児に
疲弊しとったんかもしれん
それで
私と旦那は分かれたんやった・・・
別れてからは
私は詩織を産む前にしとった
ナースの仕事に戻った
詩織も小学生になり
学童やら
実家の母親に手伝って貰ったりしながら
なんとか子育ても頑張った
そんな中で
私は時々思ったんやった
あの時のことが
旦那と別れたあの時のことが
夢やったらよかったんやけど・・・
と、そう思ったんや
そう
私は未だに旦那のことを
夢に見るんやった・・・
旦那のことは
今でも親戚付き合いのある
里美から聞くことがあるんや
里美と旦那はいとこ同士やったから
風の便りで旦那の消息が耳に入るみたいや
借金はまだまだ返し切らんようやった
そんな中で四苦八苦しながら
頑張っているらしい
そんな話を聞いたこともあった
そんなこんなで
長い年月がたったんや
子育ても落ち着き
詩織も今年から短大を卒業して
社会人になった
里美の話やと
旦那はまだ独身を通しとるらしい
私への義理を感じとるんやろか?
それにやっと借金も返したらしいと
そんな話も聞いたんやった
長い時間が過ぎた
私も仕事に育児に
必死やった
別れた当初は
度々、旦那のことを思った
でも、段々と
考えることも
考える時間も少なくなっていったんや
旦那がまだ独身だと聞いたときは
正直、嬉しい気持ちもした
もしかしたら、私とやり直す気持ちも
あるんかもしれないとも思った
借金返すまで待っとんのかな?
そうも思っとった
だけど
借金返し終わっても音沙汰ないのは
なんか悔しくて悲しくて
やるせなくて・・・
子育ても一段落してきとったんで
旦那のことも
思い出すことが多くなって
余計、私の心は
苦しくなるんやった
どうせなら
旦那が別の女性と再婚したとか
そんな話を聞いた方が良かったんかもしれん
もしかしたら
旦那も私のことを忘れておらんのやないか?
もしそうなら
わたしのことなど
どうか 忘れてくれんかな?
そう
思ってもいないことを
ふと考えることもあったんや・・・
詩織が
「母ちゃん、私も働き出したんやから
のんびりと温泉でも行ったら?」
そう言ってくれたんは今年の正月明けやった
「里美おばちゃんが、ええ温泉が山形にあるって、言っとったよ」
「そうやなぁ。温泉かぁ。久しぶりにええなぁ。でも、あんたは一緒に行かんの?」
「あたしは会社の友達と休みの日は遊びたいからええよ。母ちゃん行っといでよ」
里美は度々
私の家に遊びに来ていたんで
詩織とは仲が良くて
直接、連絡を取っているんやった
里美に紹介されたんは
山形の温泉宿
冬の雪の露天風呂は味があって
有名でええらしい
山形に親戚がおる里美は
私のために
旅の手配をしてくれたんやった
病院に連休の休みを貰って
私は山形への旅に出た
先ずは、飛行機で東京から庄内空港に飛んで
バスで日本海沿いにある加茂水族館へ
5mの水クラゲの大水槽が有名な
世界一のクラゲ水族館や
「あのクラゲの水槽は一見の価値あり」
それが、里美がこの水族館を
私の旅程に入れてくれた理由やった
平日の水族館はひとけも少ない
「あぁ、これが里美の言っとった
クラゲの大水槽かぁ。凄いなぁ」
その水槽は圧巻やった
いったいどれくらいの
クラゲが水槽におるんやろ?
この大きな水槽目当てのお客さんもおるらしく
少ないお客さんの中でも
この水槽のあるホールだけは人も多かった
そんな中
小さい子供さん二人が水槽の前で
遊びだした
お母さんは
「止めなさい!」
そうは言っとったけど
連れ戻す感じはない
他のお客さんも
かえって子供とクラゲの幻想的な写真を
喜んで写真に収めとる人もおるぐらいやった
私も暫く
そのクラゲ水槽を眺めとった
眺めながら
色んなことを考えとった
何を考えとったんか
今では詳しくは思い出せんけど
詩織のこと
旦那のこと
仕事のこと
今までのこと
これからのこと
たくさんのクラゲを見ながら
ずっと色んなことを
考えとったんや・・・
里美が予約してくれた温泉
銀山温泉はガス灯と雪景色が有名で
大正時代から続く木造の温泉宿が
有名な温泉街らしい
そういえば
なんかJRのポスターで
見たこともあるような気がするな
銀山温泉へは高速バスとJRを乗り継いで
結構な時間がかかった
加茂水族館を出たんは昼過ぎやったから
温泉に着いたんはもう日が暮れた後やった
温泉宿から駅に迎えに来てくれていた
バスに乗って温泉街に降り立つ
あぁ
写真で見た通りの景色やな
木造の味のある雰囲気の温泉街
しんしんと降り積もる雪
それを淡く映し出すガス灯・・・
私は予約した宿に入って
そして温泉に入って旅の疲れと
日々の疲れを癒す
雪の露天風呂も素敵やった
なんか私自身の
凝り固まったこりみたいなんが
ゆっくりとほぐれていくみたいな
そんな気もしたんや・・・
お風呂を出て
部屋で休んでいると
里美から携帯に電話の着信がくる
「どう? 山形は? ゆっくりと出来てる?」
「うん、ありがとう」
「加茂水族館のクラゲの大水槽な、
あれ、ええなぁ。しばらく見入ってしまったわ」
「そうでしょ?」
「銀山温泉はどう?」
「うん。ちょっと水族館から距離あるけど、ここもええわ。なんか大正時代にトリップしたみたいな感じやね。お風呂も素敵やったわ」
「なんか、日頃の疲れが溶けていった、そんな感じやね」
「良かった・・。気に入ってくれたんだね」
「実はね、麻美。あんたに黙っていたんだけどね・・・」
「うん、何?」
「今、その宿にあんたの前の旦那、明さんがいるのよ」
「えっ?」
私は絶句した
そして頭が真っ白になった
離婚して15年がたっていた
養育費などは時々送ってもらっていたけど
旦那に会うことは一度も無かったんや
詩織には会いたいという旦那の願いで
詩織と旦那は何度か会ったことも
あったんやけど・・・
その旦那がこの温泉におる?
なんで?
「里美、なんで明さんがここにおるん、この温泉に?」
「ごねんね、麻美。実はね、明さんから麻美に会って話がしたいとお願いされていたのよ。それでね、詩織ちゃんに相談したらね、「いいんやない? そろそろあの二人もよりを戻しても?」そう言われてね」
「でも、何もこんな山形の温泉宿で会うセッティングをせんでもええやん?」
「ごねんね。でも、これは詩織ちゃんのアイデアなのよ。「あの二人には、今までのしがらみやこり固まったもんを一度、流さなあかんから、温泉デートとかええんとちゃうかな?」って言われてね。詩織ちゃんと計画した旅程が今回の予定だったの。そして、明さんにも早めに予定を入れて貰ってね、今週だったら大丈夫だってことで、二人の宿をそこの温泉宿に取ったのよ。」
私は返事をすることが出来んかった
「聞いてる? 麻美。それでね、今、明さんも宿に着いてね、今、ロビーにいるそうなの」
「ねぇ、急な話で戸惑っていると思うけど、詩織ちゃんも、お父さんとお母さん、そろそろちゃんと話して欲しいって、そう言ってたわよ」
「これは詩織ちゃんの願いだし、私もあんたに明さんと話して欲しいと思ってる。だから、お願い。明さんと会ってみて?」
そう里美に言われて、私は長い時間、
答えることが出来んかった
そしてやっとこう答えたんやった
「うん、分かった。ロビーにおるのね、明さん」
「会ってくる。でも、準備もあるから、30分くらい後になるって、明さんに伝えておいてくれる?」
「うん、分かった。ありがとう。30分ぐらいね、連絡しておく」
里美はそう答えた
さぁ、大変や!
会うにしても
私は旅館の浴衣に羽織姿や!
こんな格好で15年振りに
旦那に会う訳にもいかん
私は急いで
明日着る予定だった洋服に着替えて
化粧を直してからロビーに向かった
ロビーには明さんがおった
スーツを着て立って私を迎えてくれた
明さんが進めてくれたソファに腰を降ろして
私は向かい側のソファに座った明さんを見た
あぁ、明さんや
年はとったけど
いま、いくつやっけ?
私より3つ上やったから
私が49歳やから52歳か
ええ年になったなぁ
でも、悪い感じはせえへんな
来ているスーツも悪くない
顔色も悪くない
ナイスミドルのええ男や
「久しぶりだね。麻美さん、元気そうだ」
「うん。元気よ。明さんも元気そうで良かった」
「急で悪かったね。里美さんに、麻美さんと会いたいと相談したら、こんなセッティングになってね。事前に麻美さんが知っていたら、山形には行かないだろうっていう、詩織のアドバイスでね、こうなったんだ。驚かせるようなことをして申し訳ないけど、この宿に入ってから里美さんから連絡してもらうことにしたんだ」
「そうなんやね」
最初は、初めて会う男女のように
硬かった言葉も
明さんの話を聞いているうちに
段々とリラックス出来るようになってきていた
「それでね。里美さんから聞いていると思うけど、あの時の借金も返し終わってね、今、働いている会社の仕事も順調なんだ」
「うん」
私はその後の明さんの言葉を待った
「借金を返し終わって、落ち着いたら
麻美にまた逢いたいと思ってたんだ」
「そして、もしも・・・」
「もしも?」
私は聞き返した
「もしも、その時、麻美が一人だったら
またやり直そうって、また結婚しようって
それを生きがいに、それを目標に
俺はこの15年を生きてきたんだ」
私は明さんの話を聞きながら泣いていた
涙が止まらんかった
「誰か付き合っている男の人とかいるの?」
そんなん、いてる訳ないやん
「そんなんおらんわ。私はずっとあんたのこと
待っとったんや。散々待たせてから、
このアホンダラ!」
私はそう、泣きながら胸の内を吐き出した
明さんも困った顔で
私の言葉を聞いてはった
そうや
あんたの二度目のプロポーズ
私が断るわけ無いやん
だって、だって・・・
今でもあんたは私の光なんやもの
その日の夜
明さんが宿の人に伝えて
二人、同じ部屋にして貰って
一緒に部屋食をゆっくり
語り合いながら食べて
そして
私は温泉宿の夜具の中で
明さんと一緒になれた
そう
その日が私が女の歓びを
取り戻した日やったんや
(Fin)
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