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詩を晒してみる

2024年08月29日 15:55

豪雨


 星は思った。
 雲が泣いている。
 きょうはとりわけおもいっきり泣いている。
 これは悲しみの涙なのか、それとも怒りの涙なのか。
 からだを震わせて、全ての理性を失ったかのような、その泣き方は、風をよび、嵐をよび、あらゆるものを吹き飛ばしていった。
 年老いた大木は、そのはげしさにからだがななめになってしまった。
 まとわりつくように生えていた葉っぱは、ちりぢりにふき飛んでいった。
 大木が宝物のようにだいじに枝にとまらせていた小鳥たちも、たまらず逃げていった。
 からだがななめになったまま、もはや元に戻しようがなくなった大木も、悲しみにくれ、じぶんも泣くのだとおもったが、それはかなわず、雲の流す激しい涙がみずからのからだをいためつけるのみだった。
 これでいい。
 大木は思った。
 じぶんには雲がなにが悲しくて泣いているのか想像もつかなかったが、もう泣く力ものこされていないじぶんのかわりに泣いてくれればいい、そう思ったのだった。
 悲しみの理由がわからなくても、そばにいることができる。
 それだけでいい。
 大木は思った。


 
 それからしばらくして、星が目を覚ますと、泣きつかれたのか雲はいつのまにかどこかにいってしまっていた。
 かわりにともだちの太陽が姿をあらわしていた。
 太陽は、あれを見ろといわんばかりにぎらぎらした光をある方向に照らしていた。
 そこには、大木が倒れていた。
 大木は、動かない。
 星はしばらくの間、大木をながめていたが、それでもかれがふたたび動きだすことはなかった。

 大木はいつから、あそこにいたのだろうか?
 あいつは春になると、きれいな花を咲かせていた。
 何回、何十回、何百回、あの花を咲かせていたのだろうか?
 星が、そんなことを思い出していたら、倒れた大木のすきまから、なにかが飛び出した。
 小鳥だった。
 あのはげしい、嵐のなか、大木のからだのすきまに隠れていたのだろうか?
 小鳥は、大木のまわりをくるくるととび回ったあと、すこし、なにかをかんがえるように止まっていたが、ピィィッと小さな鳴き声をあげ、そのままどこかへと飛び立っていった。
 星は小鳥のすがたをいつまでも見ていたが、やがてそれも見えなくなってしまった。

 あの小鳥はどこに行くのだろうか。
 いつかふたたびぼくたちに会いにきてくれるだろうか。

 どこまでもどこまでも飛んでいった。
 小鳥のすがたは、もうどこにもみえなかった。

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