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成程話:包む文化
2016年09月23日 23:58
外山滋比古氏の心に響く言葉
こどもに勉強を教えていたFさんが、外国人に日本語を教えることを始めた。
なれないこともあって、まごつくことが多かったが、いちばんびっくりしたのは月謝である。
日本のこどもは月末になると、封筒などに入れたお金をもってくる。
ところが外国人は、むき出しの金を差し出す。
はじめは、手が出なかった、とFさんはいう。
それで月謝袋をつくり、それに入れてもってくるようにした。
それでも、ハダカの金をもってくる外国人がなくならない、となげいていた。
日本人はものを買うとき、乗物の切符を買うときなど、機械的な支払以外、むき出しのカネを出すことはない。
カネは包むものと決めている。
見舞いなどで現金を手渡すことなど、いくら非常識だって、しない。
かならず、包み金にする。
結婚祝いはかつては品ものを贈るのがならわしだったが、同じものがダブって貰った人が困ることから、現金を渡すことが多くなった。
いくら乱暴な人でも、ハダカの金を出すことはない。
香典は昔から金ときまっていたが、きれいな新券の紙幣では、いかにも、用意して待っていたかのようでおかしい。
わざと折目をつけ、手許(てもと)にあったのをとりあえずもってきたように装う。
そして、包みの袋にはカネをかける。
品ものを贈るにしてもムキ出しは禁物である。
いくら親しくても、ビニール袋に入れたりんごを贈るのは、常識的ではない。
わけを話し、失礼を詫びる。
できれば、化粧箱に入れる。
そうすると、ずっと上等な贈りもののように見える。
むき出しがはばかられるのは、カネや品ものだけではない。
ことばも、ナマでは差し支(つか)えがあるから、手紙にする、ということがある。
顔をつき合わせているときには言いにくいことが、手紙なら書きやすい。
心やさしい、のである。
相手に強い打撃を与えそうなことは、なるべく、ゆっくり出す。
頭からノー、とやるのは、いかにも気の毒である。
まるで無茶な話でも、のっけに、“反対です”などとするのは大人気ない。
「さようですな。そういう考え方も可能でしょう。…」
といかにも、半分承知したようなことを言うが、決して、イエスではない。
“しかし、ながら”というようなことばをはさんで、すこしずつ、賛成できないことをはっきりさせる。
最後は、「どうも賛成いたしかねます」というようなことになる。
『本物のおとな論』海竜社
日本の「包む文化」は、奥床(おくゆか)しい。
奥床しいとは、上品で、慎(つつし)み深く、深い心遣いが感じられること。
本来は、その奥(先)に、行かし(心ひかれる)という意味。
包む文化は、ときとして、過剰包装とか、資源の無駄遣いとか言われることもあるが、お互いの気持ちを尊重するとても上品な大人の行為。
子どもや赤ちゃんはハダカで飛び回っていても何も言われないが、大人はそうはいかないのと一緒です。
日本人はイエス、ノーをはっきり言わない、と今まで散々こき下ろされてきたが、実は相手を思いやったり、傷つけないための、奥床しい日本の伝統文化。
包む文化を今一度見直したいと思いました。
このデジログへのコメント
なるほど。
面白いですね~
ゆうき2さん:包む文化ってあまり意識したことなかったけど意外と身近でしたね(^^)
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