コンプレックス

タレントの○○に似ているだとか俳優の□□に似ている・・・というのは割と尽きない話題であると思います。
ルックスは往々に第一印象を作るものですし、目に見える部分ですから話の種にしやすいのでしょう。

エンドウさんの知り合いに「俺ってB’zの稲葉に似てるってよく言われるんだ」と自慢する不届きな野郎がいます。
まあ、すごく大目に見れば似ていないこともありません。
稲葉サンの顔がもっと叩き潰したようにぺっちゃんこで左方向にツイストがかかっていれば、件の彼とよく似ています。
そこまでいけば別人じゃないですか！
稲葉サンに対して失礼ですよ。謝罪ですよ。

そんなエンドウさんは一時期、稲垣五郎に雰囲気が似ていると言われました。
しかし、国民的アイドルグループの一員に似ているといわれても、大して関心がなかったのであまり嬉しいとは思いませんでした。
でも、アンソニー・ホプキンスに似ているね！なんて煽てられたら、三食デザートつきで奢ってしまうかもしれません。
好きな有名人の魔力というのはすごいもんです。

有名人に似ていると言われて嬉しさを感じるのは、おそらく彼らの活躍や名声に自分の姿を投影するからなのだと思います。
そう考えると、決して自分の容姿を褒められたわけではなくなってしまいます。
賞賛されたのは垣間見えた有名人の存在であり、それによって起こる歓喜は後ろ向きな喜びということになります。
まあ、その程度のことは日常的です。
ルックスに関するコンプレックスには、もっと性質の悪いものがあるんですよ。

口裂け女はご存知であると思います。かの有名な都市伝説ですね。
大きなマスクをした女性が下校中の子どもなどに「私キレイ？」と聞いてきます。
「キレイ」と答えると、女性はマスクを外す。そこには大きく裂けた口が開いていて、女性は「これでもキレイ？」と聞いてきます。
否定するとその場で手に持った鎌で切り殺され、肯定すると逆切れしてやっぱり殺されるそうです。厄介な奴だな。
ちなみに、最初の問いかけで「キレイじゃない」と答えると瞬殺されるそうです。

そこで一考。
「キレイかどうかは人によるけど、少なくとも俺のタイプではない」と答えるとどうなるんでしょうか。
主観的な点では否定していますが、客観的な点で可能性の余地を残しているわけです。
・・・ああ、ダメだろうな。一般的に考えて、口が裂けた状態と言うのはとてもキレイという言葉で括れないものです。
それを晒して「私キレイ？」と聞いてくるわけですから、もはや道理が通じる相手ではありません。
理的な受け答えというのは、むしろ逆効果というものであります。
そんなわけで、出会ってしまったらデッドエンドしか道がないわけですが、なんか「ふつう」と答えると助かるらしいです。なんだそりゃ。

口裂け女は、元ネタが何であれ都市伝説に過ぎませんが、この手のシチュエーションは日常生活でも多々あります。
エンドウさんの後輩に、『アンパンマン』に登場するカバお君に似ている・・・と言うよりはカバお君そのものな人がいるんですよ。
カバお君はカバの擬人化ですから愛嬌もあるのですが、リアル・カバお君は残念ながら単なる不細工です。
そのカバお君がエンドウさんに言うわけです。「俺ってモテませんよね・・・」って。

「当たり前だ！」とか「俺だってモテないわ！」っていう言葉を飲み込んで、「お前の良さがわかる奴がそのうち現れるよ」なんて無難な答えを返すしかありません。
下手に「うん、そうだね」とか「そんなことないよ」なんて返した日にはカバお君の落ち込みは深度を下げるばかりです。
ですから、無難なことを言ってカバお君の気を紛らわすしかないのです。

抱え込んでいれば個人内の問題ですむのに、なんだって俺にフラストレーションをぶつけてくるんですか、もう。
おそらくは不安の表れなのでしょうが、それをおおらかに受け止められるほどエンドウさんの人間はできちゃいません。
肯定も否定も具合が悪い。中立で切り抜けるしかない。そんなの疲れてしまうじゃないですか。
まあ、そんなコンプレックスを抱えている人は結構います。
カウンセラーでもなんでもない人は真面目に応じなくて構わないので、どうか生暖かい態度で接するのが無難であると思います。

でも、いつの日か「おはようカバお君」と言ってみたい。
そんな悪いことを考えているエンドウさんでした。