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『あらしのよるに』を評論する

2005年12月03日 23:04

絵本大好きだったことを覚えている。
一人で読んでその世界の中に入り込むのも、母に読んでもらって音を楽しむのも、幼い頃のエンドウさんにとってはかけがえのない体験でした。
もしかしたら、読書を好むことの原点として、それはあるのかもしれません。

絵本といえば、『あらしのよるに』が有名ですね。
世論はともかく、これを読んだときの率直な感想は「ライトノベルみたいだな」というものでした。
ライトノベルというのは、中学生から高校生の辺りを対象とした小説のことです。ジャンルを問わず対象とする読者が楽しむことができるという点を第一とした、ひとつのエンターテイメントですね。
あらしのよるに』はヤギとオオカミという天敵同士の会話劇です。
状況設定としては、嵐の晩に風雨から逃れるために小屋へと非難してきたふたりが、真っ暗な中でお互いの正体を知らぬまま会話をしていくというものです。
『きむら式 童話のつくり方』で自ら述べているように、木村裕一はおもしろい会話を得意としています。それを活かすために、繰り返しなどの絵本セオリーをあえて破り、最低限の設定だけで物語を作った実験的な作品が『あらしのよるに』なんですよ。
未知の相手とのコミュニケーションを傍観することがどこまでおもしろいのか、というコンセプトは、それが打ち立てられた時点ですでに絵本のものではありません。

ライトノベルの構成はキャラクターを主軸としている感があります。
その魅力でもって読者を惹きつけようというのが、ライトノベルの基本的なスタイルとなっていると推測されます。
あらしのよるに』はその端的な形です。
読者はわずかな状況しか知らされていないため、必然的にキャラクターに注目します。弱肉強食の間柄であるふたりが織り成す会話と、状況を把握している読者がそれの光景俯瞰するゆえのおもしろさは、絵本的なものではなくライトノベルに通じるものに間違いありません。
むしろ描写を増やせば、ライトノベルとして発行できそうです。
 
結末を明らかにしないことも、ライトノベルでは割とよく見られる手法です。
起承転結の結の部分を曖昧にして、読者の見解に任せることにより物語に幅を持たせようという一種のテクニックですね。
ヤギとオオカミはお互いの正体を知らないまま嵐の晩を過ごし、明くる日に再会を約束して別れます。
あらしのよるに』は計七冊になったシリーズですが、木村裕一の構想としては一冊完結であったので、ヤギとオオカミのその後は様々な可能性を秘めたものとなっています。
ヤギは食べられてしまったかもしれないし、オオカミの情けで見逃してもらえたかもしれない。あるいは再会を約束しながらも二度と会わなかったということもありえます。
エンターテイメントとしては、読者の解釈が入りやすいように含みを持たせて幕を閉じることは方法のひとつとして有効であると思います。しかし、それはエンターテイメントであるからおもしろいのであって、絵本としては的を外した方法ではないでしょうか。

あらしのよるに』は絵本という分野で発表されているにもかかわらず絵本らしくない。
絵本に通じている訳ではありませんが、それが単なるエンターテイメントではないことは、絵本に関して学んだ経験から感じ取れます。
絵本とは読み手と聞き手との間に喜びや信頼を育み、それを共有するものです。
では、なぜ『あらしのよるに』は誕生したのか。
それは木村裕一の絵本考について触れると比較的わかりやすいでしょう。
彼は絵本エンターテイメントのひとつとして捉えている節があります。『きむら式 童話のつくり方』で自分の童話哲学を述べており、そこから絵本観が見て取れます。
いわく、人は精神のバランスをとるために“ドキドキハラハラ感”を得るための疑似体験を欲しているそうです。その一例として、かくれんぼとおにごっこを挙げています。
隠れる・探す・追いかける・追いかけられるといった要素はエンターテインメント作品には必ず含まれているものであり、童話も決して例外ではないというのです。
もちろん、全ての童話がそれらを内包している訳ではない。しかし、フィクションは“ドキドキハラハラ感”を求めている部分を考慮して作るものであるという。それでもって読者の心を満たすのがエンターテイメントであり、童話もそのひとつであると木村裕一は主張しています。

思うに、木村裕一は土俵を間違えているのではないだろうか。
少なくとも、『あらしのよるに』だけを取り上げてみればそう思えて仕方がありません。
様々な描写を書く文章力がないために、絵本の世界に転がり込んだのではないかと邪推してしまいます。
それは、彼の絵本作りの思想が読者を楽しませるという点に立っているために生じる疑心なわけですが。
あらしのよるに』は老若男女に好評を得ているし、売り上げも非常に高い。しかしそれは、ぜひ子どもに読んであげたい絵本だからなのではなく、読んでいておもしろい作品だからなのでは・・・と思うのです。

幼子のときとは違う視点で絵本を見るようになったエンドウさんは今、22歳。
そう、本日を持ちまして22歳になりました。

このデジログへのコメント

  • えり 2005年12月03日 23:58

    お誕生日おめでとう!!お祝いした?「あらしのよるに」は大人気みたいだね。

  • 瑞穂 2005年12月04日 01:13

    お誕生日おめでとうございます、同い年なんですねーv「あらし~」私は6巻で完結かと思ってました;

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