それとこれは関係ない

クリスマスが目前まで迫ってきています。
所々を彩るイルミネーションや、ケーキやチキンなどの予約が盛んに行われています。
道行くカップルの姿は控えるものに思いを馳せているのか、より一層幸せそうな雰囲気をかもし出しています。
そんなわけで人も街も華やいでいるわけですが、予定といえるようなものはなく、あるといえばバイトだけというエンドウさんは必然的にクールになります。
クリスマスは本来ならばキリストの誕生際です。もっと探っていけば、キリスト教を布教するために地方の収穫祭が改変されたということは有名な話です。
さらに言うならば、キリストの誕生日自体も諸説あり、12月25日がそうだと言い切れる根拠はありません。
それなのに、どこの誰が言い出したのかいつの間にやらクリスマスは恋人たちの日という認識が蔓延し、カップルは愛を語り合い一人身は臍をかむとは悲しい事態ではないですか。
嘆くことはない。もとよりクリスマスの定義は曖昧だ。それならば世俗の価値などに背を向けて、自らの意味を見出せばいい。
クリスマスはチキンが売れる期間だ。
そんなエンドウさんはお肉屋さん。

それはさておき、めまぐるしいクリスマスムードの街で、いちゃいちゃと乳繰り合う高校生カップルが目に留まりました。
女の子のほうが、「どこのグラビアアイドルですか？」と尋ねてしまいそうなほどかわいい容姿を備えていまして、思わず嘆息してしまいました。
もちろん、かわいければいいというわけではありません。ふたを開けてみれば辟易するような性格が飛び出すかもしれませんから、外見だけですべてを判断するのは早計です。
しかし、ただ単に見ている分には風貌が端整であることに越したことはありませんから、その外面をかわいいと思います。
さて、こんな美少女を彼女としているのはどんなイケメンかしら・・・と彼氏のほうを見やると、これがもうすごい不細工なんですよ。
俺も人のことをどうこう言える顔じゃありませんが、礼節をかなぐり捨てて言えば、どう見てもガマガエルにしか見えない顔です。二足歩行のガマガエルですよ。
どうして美女と野獣カップルが成立しているのか摩訶不思議です。しかし彼の魅力は顔などではなく、第三者には見えざる内面なのでしょう。
しかしまあ、見せ付けてくれるじゃありませんか。
ガマガエルなのにグラビアアイドルを彼女にしていることを、自慢げに思っているのかもしれません。

さて、かわいい彼女といえば、バイト先の後輩であるＮ君の彼女は相当かわいいという話が職場に蔓延しています。
エンドウさんとしてはプリクラを一度見た限りですが、確かにそこにはかわいい女の子が写っていました。
Ｎ君自身はさして自慢するでもないようですが、周囲の人間はそれをはやしたてています。店長(男性・26歳)にいたっては「Ｎの彼女めちゃくちゃかわいいよ！」と嬉しそうにエンドウさんに教えてくれます。
まあ、付き合いというものがありますから「そうなんですか」と適当に相槌を打っていますが、内心は非常にどうでもいいと思っています。
かわいいのはあくまでＮ君の彼女であって、店長やＮ君がかわいいわけではないし、ましてやエンドウさんがかわいいわけではありません。
そんな遠い存在の話を我がことのように騒ぎ立てる人たち(特に店長)の気持ちは、わかりかねるものがあります。

しかしながら、同じような話はそこらじゅうに転がっています。
たとえば、エンドウさんが通っていた中学校は、スキマスイッチのアフロのほうが在学していたそうです。
彼とはまったく面識がありませんが、とりあえず先輩後輩の間柄と呼べなくもありません。
別にスキマスイッチのファンというわけではありませんし、中学校に格別の思い入れがあるわけではないので、「ふーん」程度にしか感慨を覚えませんでした。
しかし、このことをとても自慢に思っている人たちがいるんですよ。
一部の保護者の皆様方です。元はといえば彼らが吹聴していたことを妹経由で耳にしたわけですから、そこにおしゃべりな口があったということです。
その勘違いを浅はかだと思います。

アフロ君がその中学校を卒業したというのは単なる事柄にしか過ぎません。
履歴書に書くならば、たったの二行で済まされてしまうような人生の一課程にしか過ぎないのです。彼に母校に対する慕情があるのならばともかく、単純に在籍していたというだけなら、ただの通過点です。
しかも、その事実と保護者の皆様方には何の関係もないではありませんか。
当校から名誉ある卒業生が出ました、と学校が自慢するというならわからない話ではありません。学校の名声をあげることができますから、その事実を利用することは手段の一つでしょう。
しかしアフロ君が卒業して数年が経ち、直接の関係者がいないであろう現在において、疎遠な父母が騒ぎ立てることではないはずです。
すごいのは実績を示しているアフロ君であって、それ以外の人間は完全に他人です。

これはまさに他人のふんどしで相撲を取る、もしくは虎の威をかる狐というやつですね。
そんなことをしている暇があるなら、自分の内に誇れることを見出せってなもんです。