【お題日記】初デートで気を付けること ＃９

（#8からのつづき）

その日の13時半頃、僕とNさんは映画観に着いた。上映まであと10分。

僕は受け付けでチケットをもらい、やっと気持ちが少し落ち着いた。
いろいろあったけど、これでとりあえず遅れを取り戻した…

ベンチが空いていれば座ろうと思ったが、あいにく全てふさがっていた。

「Nさん、お腹空いてない？」
「私は、来る前に軽く食べて来たから大丈夫。シュージさん、夜勤明けだから何か食べたら？」
と、売店を見やり「私、トイレに行って来るね」と、その場を離れた。

僕のお腹…
不意に、さっき食べたペペロンチーノのニンニクの香りが口の中に広がってきた。そして、さっきの彼女の顔とその時の気持ちが心に浮かんだ。

僕は売店の列に並んだが、胸がいっぱいになり、（アイスコーヒーではなく）ジンジャーエールを買った。

そこへNさんが戻ってきた。
「食べ物買わなかったの？」
「う、うん。Nさん飲み物は？」
「トイレに行きたくなっちゃうから大丈夫」

2人の会話と行動が微妙に噛み合わないなぁと感じていた。やっぱり、さっきのことが引っかかっているのか…

そこへ、開場のアナウンスがあり、劇場に入り、2人並んで座った。
スクリーンでは宣伝や予告の映像が流れ始めた。

薄暗い中で僕は、隣に座っているNさんの横顔を見た。
Nさんは前を向いて、これから観る映画の話をしたり、予告編にコメントしたりしている。

あー、そういえば、さっきの彼女は向かい合って座って、顔を見ていたけど、Nさんは顔を正面から見ていないかも。
映画を観終わって、カフェでも入って、ゆっくり話をしよう。その時、できたらさっきの話をしよう。

僕は心の中でそう決めて、前を向いた。

ほどなく、映画が始まった。

（つづく）