【お題日記】初デートで気を付けること ＃８

（#7からのつづき）

その日の13時15分頃、僕がいけふくろうの前で待っていると、黒いワンピースを着た女性が小走りでやってきた。
それは、一目でNさんだとわかった。

「あー、シュージさん！」
「はい。Nさん。」
「会えてよかった！」

ノースリーブのワンピースから出た、肉感的な二の腕が目に入った。大人のしっとりとした雰囲気だった。

僕が先に来ていて、後からNさんが遅れて来たみたいになってるけど、ほんとは違うんだ。僕が30分も遅れてしまったんだ。
でも、その間に僕は何をしていたか… 間違えたとはいえ、他の女性と会っていたなんて、Nさんは気を悪くするだろう。
だから僕は、先に会っていた彼女のことは、なかったことにしよう。ただ単に、道に迷ったのだと…

「ごめんなさい。僕、ちょっと電車降りてから……」

と、僕の言葉が終わる前に、

「さっき、私ここで待ってたんだけど、ここの前通った？グレーのポロシャツだったからシュージさんかなって。で、誰か知ってる人と会ってどこかに行ったのかなって思って…
それから、それらしい人に何人か『シュージさんですか？』って聞いたりして…
で、来ないからもう帰ろうかと思って改札の手間まで行ったらメールが来て、引き返したの」

Nさんは、僕の横にはいるけど、僕と目を合わせず、早口で語った。

あれ？
何？
どういうこと？
彼女といるところを見られたの？

なんだか、頭がクラクラしてきた…

ふと、先に会った彼女のことが頭をよぎる。

さっきの娘はかわいかったな 楽しかったな で また別の人と会ってるんだ
あ いや この人が何度もメールをして仲良くなった人だ

頭がグルグルしていると、Nさんが言った。

「ねぇ、ねぇ、いけふくろうって何なの？表示を見て来たんだけど」

「あっ、あー、これだよ。このふくろうの像がいけふくろうなの」
「ふーん。じゃあ、行こうか。映画始まっちゃうよ。」

Nさんはこの映画をとても楽しみにしていたんだ。チケットは僕が2人分予約してある。

映画の時間は13時40分。
少し急いだ方がいいか。

そしてまた、さっきの道を今度はNさんと並んで歩き（少し早歩きで、軽く世間話をしながら）、さっきのパスタ屋さんの前を通り、映画館に着いた。

上映時間にはまだ少しゆとりがあるようだった。

（つづく）